職人の高齢化や建材価格の高騰など、工務店経営には多くの課題が残されています。
多角化経営は日々の変化に対応しながら新規事業を発展させる、工務店の生存戦略の1つです。
本記事では多角化経営のメリット・デメリットや、成功のポイントを解説します。
多角化経営の成功事例も紹介するので、自社に取り入れるかお悩みの経営者様は、ぜひ参考にしてみてください。
工務店に多角化経営が求められる背景

新築住宅市場が縮小している
新築住宅市場は、年々縮小傾向にあります。
国土交通省の「建築着工統計調査報告」によると、2025年1月の新設住宅着工戸数は56,134戸です。
前年同月比で4.6%減であり、9ヵ月連続の減少となりました。
とはいえ建築業界はリフォーム・リノベーション事業が増加傾向にあることから、多角化戦略のチャンスともいえます。
顧客ニーズが多様化している
住宅業界における顧客ニーズは、大きく変化しています。
例えば近年は、核家族や単身者で暮らす住宅のニーズが増加傾向です。
また、シェアハウスやゲストハウスといった他人とのつながりを重視するニーズも高まっていて、住宅に求める付加価値は多様化しています。
中古住宅や空き家を利用する動きも活発化しており、国や自治体がリノベーションへの補助事業に力を入れています。
働き手が不足している
住宅業界は長年人材不足に悩まされています。
人材を確保できなければ工期に遅れが出るばかりか、案件の受注すら難しくなるでしょう。
工務店が年間の建築棟数を維持できない場合は、不動産仲介やインテリア事業などの関連事業へ幅を広げるのも1つの手です。
資材価格は高騰している
長引くウクライナショックと原油高、新型コロナウイルス感染症などの影響を受け、建築資材の価格が高騰しています。
価格高騰に伴い住宅価格も上がっていて、新設住宅が減少する要因の1つになっています。
資材価格の高騰の長期化は避けられないため、物件価値の向上をはじめ別の角度から対策を施す必要があるでしょう。
工務店が多角化経営するメリット・デメリット

多角化経営のメリット①収益拡大につながる
工務店が多角化経営に取り組む一番のメリットが、収益の拡大です。
綿密な戦略を立てたうえで新規事業に参入することで、収益につながる可能性は高いといえるでしょう。
また複数の事業に経営資源を分散するため、収益が平準化して経営も安定しやすくなります。
多角化経営のメリット②リスクを分散・軽減できる
1つの事業に専念していると、その分野の景気が悪くなると収益は大きく低下します。
顧客ニーズの変化や法改正、新技術の登場などにより、既存事業を取り巻く環境は常に大きく変化しています。
特に地域に根ざした工務店にとって、リスクを分散・軽減できるのは大きなメリットといえそうです。
多角化経営のメリット③シナジー効果が生まれる
複数の事業を運営することで、既存事業と新規事業に大きな相乗効果が生まれます。
シナジー効果とは「1 + 1 = 2」ではなく、「1 + 1 = 2以上」になるような効果を生み出すことです。
工務店の場合は、建築面では設備・原材料を共有するシナジー効果、技術面では技術・ノウハウの共有によってシナジー効果などが得られるでしょう。
さらにコスト削減や時間の節約、知識・ノウハウの共有といったメリットももたらします。
多角化経営のデメリット①コストがかかる
多角化経営には新規市場の開拓や製品開発、マーケティング活動などが必要であり、一定のコストがかかります。
新規事業がすぐに軌道に乗るとも限らないことから、収支計画は慎重に検討しなければなりません。
金銭面だけではなく、時間的なコストがかかることも考慮しておくと良いでしょう。
多角化経営のデメリット②リソースが分散する
多角化経営は単一事業と比較して、ヒトやカネといったリソースが分散します。
既存事業とのバランスを考慮しなければ、リソースを集約できず、経営効率が悪くなる可能性があります。
多角化経営によって既存事業がおろそかにならないように、新規事業のリソース管理もしっかりと行いましょう。
多角化経営のデメリット③企業イメージがブレる可能性がある
複数の事業を展開していると、顧客からの企業イメージがブレる可能性があります。
例えば高級志向だった工務店が低価格帯の別事業を展開すると、「この会社は何をしたいかわからない」といった印象を持たれかねません。
工務店に確立したブランドがある場合は、顧客が抱く企業ブランドのイメージにも配慮することが重要です。
多角化経営の種類と工務店への応用
水平型多角化経営
水平型多角化とは既存事業と同じ分野の市場に、新しい商品・サービスを展開する戦略です。
既存のノウハウや技術を活かしやすいため、新たな設備投資などの金銭負担を抑えられます。
工務店の場合は戸建て住宅だけではなく、マンションや商業施設の建築に事業を拡大していく戦略が挙げられます。
垂直型多角化経営
垂直型多角化とは、既存事業の上流や下流過程に進出して事業を拡大していく戦略です。
市場やエンドユーザーは変わらないことから、既存の主力事業とのシナジーを活かしやすいのがメリットです。
例えば住宅建築を行ってきた工務店が、下流工程の建築資材の販売や不動産の仲介に進出することを指します
集中型多角化経営
集中型多角化とは、自社の強みや経営資源を活かせる事業へ進出する戦略です。
既存のノウハウや資源を応用することで、競合他社と差別化を図りやすいのがメリットといえます。
例えばこれまで培った設計・施工のノウハウを活かし、リフォーム事業へ進出することが挙げられます。
多角化経営を考える際のポイント

自社の強み・弱みを理解する
多角化経営は、自社の強みを最大限に活かすことが重要です。
事業規模や販売エリアを拡大するにしても、自社の強み・弱みを理解していなければ、具体的な戦略を練るのは難しいでしょう。
自社の住宅の特長や他社と差別化できるポイントなどを明確にして、多角化に向けた基盤を整えることをおすすめします。
徹底的に市場を調査する
工務店の多角化経営を成功させるためには、徹底した市場調査が欠かせません。
市場ニーズと合わない事業へ投資を行なってしまえば、失敗するリスクが高まるからです。
自社の強み・弱みを理解したうえで、販売エリアや家族構成、年代などの情報を絞り込み、ターゲット層を絞ることが重要です。
スモールスタートを意識する
多角化経営に取り組む際は、段階的に展開していくことをおすすめします。
いきなり大規模的にスタートすると失敗したときの損害が大きく、軌道修正が難しくなるからです。
多角化経営では分析・改善を繰り返し、リスクを抑えながら成功確率を高める必要があります。
工務店の多角化経営の成功事例
工務店の多角化経営の成功事例①リノベーション事業
新規事業先として、リノベーション事業を選ぶ工務店は多いです。
リノベーションは既存住宅に大がかりな改修を施して、新たな機能や付加価値を加えるものです。
新築住宅を手がけてきた工務店だからこそのリノベーションを提案すれば、リフォーム業者とも大きく差別化を図れます。
工務店の多角化経営の成功事例②不動産事業
不動産事業も、工務店の多角化経営を代表する成功事例です。
地域密着型の工務店であれば仲介事業や賃貸管理が入りやすく、収益性のある会社になりやすいでしょう。
また工務店のノウハウ・技術を活かした「中古住宅 ×リノベーション」の提供や、地域密着型の不動産情報サイトを運営するという手もあります。

まとめ
工務店を取り巻く市場環境の変化や競争の激化は、工務店が多角化経営を考えるきっかけの1つになります。
工務店の多角化経営には収益拡大やリスクの分散、シナジー効果など多くの可能性を秘めています。
本記事で解説したメリット・デメリットや成功のポイントを理解して、収益拡大に向けて自社の強み・弱みの洗い出しから始めてみてください。