ITエンジニアや社員のスキル管理ツールfapi(ファピー)を提供する株式会社エフ・ディー・シーのDXサービス事業推進部 佐々木舞美が、200名以上のITエンジニアのスキル管理を25年以上行ってきた実務経験をもとに、厚生労働省が公開しているスキルマップ「職業能力評価シート」について解説します。

従業員のスキルを可視化したいけれど、ゼロから評価項目を作るのは大変——そんなときに役立つのが、厚生労働省が無料で公開している公的なスキルマップです。本記事では、職業能力評価シートの中身、対応業種、ダウンロード方法、自社に合わせたカスタマイズの手順まで、実務で使える形で整理しました。

厚生労働省のスキルマップ「職業能力評価シート」とは

職業能力評価シートとは。職業能力評価基準(事務系職種+56業種)を実務向けに簡略化したもので、評価シート本体とサブツールで構成される

厚生労働省が提供しているスキルマップは、正式には「職業能力評価シート」と呼ばれます。これは、厚生労働省が策定した「職業能力評価基準」を、企業が実務で使いやすいように簡略化した人材育成ツールです。

職業能力評価基準とは、仕事をこなすために必要な「知識」と「技術・技能」に加えて、「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を、業種別・職種別・職務別に整理したものです。平成14年度から整備が進められており、ものづくりからサービス業まで幅広い業種をカバーする公的な評価基準となっています。

「職業能力評価基準」と「職業能力評価シート」の違い

この2つは名前が似ているため混同されやすいのですが、役割も対応業種の数も異なります。スキルマップとして使いたい場合に必要なのは、後者の「職業能力評価シート」です。

項目 職業能力評価基準 職業能力評価シート
位置づけ 能力を体系的に整理した「基準書」 基準を簡略化した「チェック形式の評価表」
主な用途 人材育成・採用・人事評価の土台 個人の習熟度チェック(スキルマップ)
対応範囲 事務系職種+56業種 事務系職種+16業種
ボリューム 詳細で分量が多い 実務で扱いやすい分量に整理

職業能力評価基準は幅広い業種で整備されていますが、そのまま使えるスキルマップ形式(職業能力評価シート)が用意されているのは一部の業種に限られる点に注意が必要です。

職業能力評価シートの構成

職業能力評価シートは、次の2つのシートで構成されています。

構成要素 内容 目的
評価シート(本体) 各レベルに求められる基準の全体像を把握し、習熟度をチェックするシート 能力レベルの可視化と評価
サブツール 具体的な知識や能力を記載したシート 詳細な能力要件の明確化

評価シート本体の「職業能力評価チェックリスト」は、担当する職務能力をリスト化したもので、職業能力評価基準のレベル別「職務遂行のための基準」をもとに作成されています。「自分(または部下)の能力レベルはどの程度か」「次のレベルに上がるには何が不足しているか」を具体的に把握できる点が最大の特徴です。

厚生労働省のスキルマップが対応している業種一覧

職業能力評価シートは、業種横断的な事務系職種のほか、16業種で整備されています。自社が対象かどうかをまず確認しましょう。

事務系職種(業種横断)

事務系職種は、どの業界にも共通する職務を対象としており、次の3グループに分けて提供されています。

グループ 対象職種
人事・生産管理系 人事、人材開発、労務管理、生産管理、ロジスティクス
経営戦略・営業系 経営戦略、情報システム、営業・マーケティング・広告
管理部門系 企業法務・総務・広報、経理・資金財務、経営管理分析・国際経営管理、貿易

IT企業であれば「情報システム」、人事部門であれば「人事・人材開発」というように、業種を問わず自社の職種に合うシートを選べるのが事務系職種の強みです。

職業能力評価シートが整備されている16業種

  • エステティック業
  • 警備業
  • 葬祭業
  • ディスプレイ業
  • 外食産業
  • フィットネス産業
  • 卸売業
  • 在宅介護業
  • スーパーマーケット業
  • 電気通信工事業
  • ホテル業
  • ビルメンテナンス業
  • アパレル業
  • ねじ製造業
  • 旅館業
  • ウェブ・コンテンツ制作業

これらの業種では、キャリアマップ、職業能力評価シート、導入・活用マニュアルがセットで提供されており、厚生労働省のウェブサイトから無料でダウンロードできます。

自社の業種が一覧にない場合はどうする?

自社の業種が16業種にない場合の3つの選択肢

16業種に自社の業種がなくても、活用の道はあります。実務では次の3つのアプローチが現実的です。

  1. 事務系職種のシートを使う:職種単位で選べるため、業種を問わず適用しやすい
  2. 職業能力評価基準を参照する:シート化されていなくても、基準自体は56業種で整備されている
  3. 近い業種のシートをベースにカスタマイズする:業務内容が近い業種のシートを土台に、自社の項目へ差し替える

厚生労働省のスキルマップをダウンロードする方法

職業能力評価シートは、厚生労働省の公式サイトから無料でダウンロードできます。登録や申請は不要です。

ダウンロードできる3点セット

ツール 内容 活用場面
キャリアマップ 業種内でのキャリア形成の道筋と、各レベルの目安年数を示した図 キャリアパスの提示、育成計画の設計
職業能力評価シート レベル別に習熟度をチェックする評価表(スキルマップ本体) 能力の可視化、自己評価・上司評価
導入・活用マニュアル 導入手順や運用方法を解説した資料 社内展開、運用ルールづくり

ダウンロードの手順

  1. 厚生労働省の「キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード」ページを開く
  2. 自社の業種、または事務系職種の行を探す
  3. 「キャリアマップ」「職業能力評価シート」「導入・活用マニュアル」からそれぞれ必要なものを選ぶ
  4. 職業能力評価シートは「一覧へ」から職務ごとのシートを選択してダウンロードする

ダウンロードページはこちらです:キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード|厚生労働省

なお、導入・活用マニュアルに記載されている内容は基本的に策定当時の情報となるため、最新の法改正や制度変更については別途確認することをおすすめします。

職業能力評価シートの使い方と評価の進め方

ダウンロードしただけでは人材育成にはつながりません。評価の進め方を押さえておきましょう。

4段階のレベル区分

職業能力評価基準の4段階レベル区分。レベル1の担当者からレベル4の組織・部門の責任者まで段階的に設定されている

職業能力評価基準では、担当者に必要とされる能力水準から、組織・部門の責任者に必要とされる能力水準まで、4つのレベルが設定されています。おおまかには次のような段階構成です。

レベル 想定される立場
レベル1 担当者として、指示を受けて定型的な業務を遂行する段階
レベル2 担当者として、自ら判断しながら業務を遂行する段階
レベル3 チームの中心メンバー・指導者として業務を遂行する段階
レベル4 組織・部門の責任者として意思決定を行う段階

各レベルの正確な定義や、業種ごとの具体的な基準は厚生労働省の資料に記載されているため、実際に運用する際は公式資料をあわせてご確認ください。このレベル区分も自社の等級制度に合わせて変更できるため、既存の人事制度と接続させて運用するのが実務的です。

評価の6ステップ

  1. 本人による自己評価の実施
  2. 上司による評価の実施
  3. 両者の評価結果の比較
  4. 認識の違いの確認
  5. フィードバック面談の実施
  6. 成長に向けた行動計画の策定

自己評価と上司評価のギャップこそ活かす

本人と上司がそれぞれチェックすると、両者の間に認識の違いが生じることがあります。このギャップを本人へ伝えること(フィードバック)が、職業能力評価シートの最大の価値です。「自分はできているつもりだったが、期待水準はもっと高かった」という気づきが、行動改善や自己啓発のきっかけになります。

逆に、評価結果を集計して終わりにしてしまうと、シートは単なる書類になってしまいます。必ずフィードバック面談とセットで運用しましょう。

厚生労働省のスキルマップを活用するメリット

企業側のメリット

メリット 具体的な効果
作成コストの削減 ゼロから評価項目を作る必要がなく、無料で入手できる
人材育成の効率化 育成すべきスキルが明確になり、研修計画が立てやすくなる
評価の客観性向上 公的基準に基づくため、評価の公平性・納得感が高まる
組織課題の可視化 組織全体のスキルの偏りや不足を把握できる
採用精度の向上 求める人材像が明確になり、採用のミスマッチが減る

従業員側のメリット

  • 自分の能力レベルを客観的に把握できる
  • キャリアアップに必要なスキルが明確になる
  • 成長目標が具体的になり、モチベーションが向上する
  • 公的基準に基づくため、評価への納得感が高い

自社に合わせてカスタマイズする手順

職業能力評価シートは業界内での標準的な基準であるため、各企業の実情に合わせてカスタマイズして活用することが厚生労働省からも推奨されています。次の手順で進めるとスムーズです。

  1. 業種別または事務系職種のテンプレートをダウンロードする
  2. 自社の業務内容との整合性を確認する
  3. 不要な評価項目を削除し、自社独自の項目を追加する
  4. レベル区分を自社の等級制度に合わせて調整する
  5. 現場の評価者に試験運用してもらい、意見を集める
  6. 改善したうえで本格導入し、定期的に見直す

カスタマイズの際に注意したいのが、評価者と従業員で解釈がずれる表現を残さないことです。「〜を理解している」といった曖昧な表現は、人によって判定が変わります。「〜を単独で実施できる」のように、行動レベルで判定できる文言に整えましょう。

導入時の注意点|形骸化を防ぐには

継続的な運用と見直しを前提にする

職業能力評価シートは、導入後に形骸化しやすいツールでもあります。以下の点に注意しましょう。

  • 定期的な評価とフィードバックの実施(年2回程度が目安)
  • 評価結果を実際の育成施策・研修計画に反映する
  • 従業員への丁寧な説明と理解促進
  • 経営層のコミットメントと支援
  • 評価基準の定期的な見直しとアップデート

評価者を育成する

適切な評価を行うためには、評価者自身が評価基準を正しく理解し、公平な評価ができるようトレーニングを受けることが重要です。評価者研修を実施し、部署間での評価のばらつきを最小限に抑えましょう。

Excel運用の限界を知っておく

ダウンロードしたシートはExcel形式のため、そのまま運用を始められる手軽さがあります。一方で、従業員数が増えるにつれて次のような課題が表面化します。

  • 部署ごとにファイルが分散し、組織全体のスキルを横断的に見られない
  • 集計・更新に手作業が発生し、担当者の負担が大きい
  • 最新版がどれか分からなくなり、情報が古くなる
  • 担当者の異動・退職で運用が止まる(属人化)

厚生労働省のスキルマップに関するFAQ

FAQ よくある質問

職業能力評価シートは本当に無料ですか

はい。厚生労働省の公式サイトから、登録や申請なしで無料でダウンロードできます。キャリアマップ・職業能力評価シート・導入活用マニュアルの3点がセットで提供されています。

中小企業でも導入できますか

できます。職業能力評価シートは複雑な評価基準を実務で使いやすい形に簡略化しているため、専任の人事部門がない企業でも導入しやすいのが特徴です。まずは1部署から試験運用し、段階的に広げていく方法をおすすめします。

評価項目は変更してもよいのですか

問題ありません。職業能力評価シートは業界内の標準的な基準であり、厚生労働省も各企業でのカスタマイズを推奨しています。自社の業務内容や組織構造に合わせて調整することで、より実効性の高いツールになります。

スキルマップと職業能力評価シートは同じものですか

厳密には異なりますが、実務上はほぼ同じ目的で使われます。スキルマップは「誰がどのスキルをどのレベルで保有しているか」を一覧化した表の総称で、職業能力評価シートはその公的なテンプレートのひとつと考えるとわかりやすいでしょう。

評価はどれくらいの頻度で行うべきですか

年2回程度が一般的です。人事評価のタイミングと合わせると運用が定着しやすくなります。ただし、スキルの変化が早い業界では、四半期ごとに簡易的な更新を行うケースもあります。

まとめ|次のステップとして

厚生労働省が公開している職業能力評価シート(スキルマップ)は、公的な評価基準に基づいた信頼性の高い人材育成ツールです。事務系職種のほか16業種について無料で提供されており、企業規模を問わず活用できます。自社の実情に合わせてカスタマイズすれば、人材育成の土台として十分に機能します。

一方で、Excelベースの運用は従業員数が増えるほど負担が大きくなります。スキル情報を組織全体で横断的に管理し、常に最新の状態に保つには、デジタルツールの活用が効果的です。次の記事では、実際に使えるスキルマップツールを比較して紹介していますので、あわせてご確認ください。

出典

本記事は、厚生労働省の公式ウェブサイトに掲載されている以下の情報を参照しています。