ITエンジニアや社員のスキル管理ツールfapi(ファピー)を提供する株式会社エフ・ディー・シーのDXサービス事業推進部 佐々木舞美が、200名以上のITエンジニアのスキル管理に25年以上携わってきた経験から「定義済スキル標準とiCD」を解説します。

自社でスキル管理を始めようとすると、「どの項目でスキルを測るか」を決める段階で止まりがちです。そこで使えるのが、国が整備してきたスキル標準(ITSS・UISS・ETSS)と、それらを統合したiCD(iコンピテンシ・ディクショナリ)です。

この記事では、定義済スキル標準とiCDの関係、iCDを構成するタスクディクショナリ・スキルディクショナリの中身、自社に導入する5つの手順と注意点を整理しました。ゼロからスキル項目を作る手間を省きたい方は参考にしてください。

定義済スキル標準とiCDとは

定義済スキル標準(iCD)とは?

定義済スキル標準とは、IT人材に求められる業務と能力を、国(IPA:情報処理推進機構)があらかじめ体系化して公開したスキル標準の総称です。具体的にはITSS・UISS・ETSSの3つを指します。

iCD(iコンピテンシ・ディクショナリ)は、この3つのスキル標準を統合・再整理し、ITを活用するビジネスに必要な「タスク(業務)」と「スキル(能力)」を辞書形式でまとめたものです。IPAが2014年に公開し、2022年12月公開のiCD2022が最終版となっています(参考:IPA iコンピテンシ ディクショナリ(iCD))。

「コンピテンシ」は成果を生み出す能力や行動特性、「ディクショナリ」は辞書を意味します。企業は、この辞書から自社に必要なタスクとスキルを選び出すだけで、スキル管理の項目を短期間で揃えられます。

iCDの元になった3つのスキル標準

スキル標準対象概要
ITSS(ITスキル標準)IT企業のIT人材11職種・35専門分野と7段階のレベルで、IT人材の能力を定義
UISS(情報システムユーザースキル標準)ITを利用する企業(ユーザー企業)の情報システム部門IT部門の業務(タスク)と、それに必要な人材像・スキルを定義
ETSS(組込みスキル標準)組込みソフトウェア開発の人材組込み開発に必要なスキルと職種・キャリアを定義

ITSSの職種・レベルの詳細はITスキル標準(ITSS)とは?11職種と35専門分野、7段階スキルレベルについてで解説しています。

iCDの中身:タスクディクショナリとスキルディクショナリ

タスクディクショナリとスキルディクショナリの活用

iCDは「タスクディクショナリ」と「スキルディクショナリ」の2つで構成されています。タスクが「やるべき仕事」、スキルが「仕事を支える能力」という関係です。

タスクディクショナリスキルディクショナリ
定義するもの組織に求められる機能・役割を「課される仕事」として定義タスクを支える能力(スキル・知識)を整理
階層構造大分類 → 中分類 → 小分類 → 評価項目の4層スキルカテゴリ → スキル分類 → スキル項目 → 知識項目の4層
規模(iCD2017)中分類 約380、小分類 約1,200、評価項目 約4,400カテゴリ 5、分類 88、項目 約480、知識項目 約10,200
使い方自社に必要なタスクを選び、評価項目で「できる/できない」を判断する選んだタスクに紐づくスキルを確認し、育成や配置の判断に使う

参考:IPA iCD2017ポケットハンドブック(PDF)

全項目をそのまま使う必要はありません。約1,200のタスク小分類から自社に関係するものだけを選ぶのが前提で、IPAも役割別・事業形態別・開発手法別などの切り口で絞り込む使い方を示しています。

デジタルスキル標準(DSS)との違い

デジタルスキル標準(DSS)とITスキル標準(ITSS)の違いは何ですか?

デジタルスキル標準(DSS)は、経済産業省とIPAが2022年に公開した、DX推進に必要な人材像とスキルを定義したものです。全ビジネスパーソン向けの「DXリテラシー標準」と、DXを推進する人材向けの「DX推進スキル標準」で構成されます。

比較項目iCDDSS
目的ITに関わる業務とスキルを網羅的に定義し、組織のスキル管理・育成に使うDXを推進する人材像を示し、DX人材の育成方針に使う
対象IT企業・ユーザー企業のIT人材全般全ビジネスパーソン(リテラシー標準)とDX推進人材(推進スキル標準)
粒度タスク約1,200・知識項目約10,200の詳細な辞書5つの人材類型と、それぞれに必要なスキル項目
向いている用途スキルマップの項目設計、既存エンジニアの評価DX人材の育成計画、採用要件の整理

iCDとDSSは置き換えの関係ではなく、スキル管理の細かな項目設計にはiCD、DX人材の方向性を示すにはDSSという使い分けになります。

iCDを自社に導入する5つの手順

定義済スキル標準(iCD)の活用方法

IPAの解説書では、企業でのiCD活用を「要件分析→タスク分析→役割定義→評価項目・判定基準の策定→試行と確定」の流れで示しています。実務に合わせて整理すると次の5手順です。

1. 要件分析:自社の事業目標から必要な機能を洗い出す

経営戦略や事業計画から、自社が担うべき業務領域を整理します。「受託開発が中心か」「自社サービスの運用があるか」など、事業の形で必要なタスクは変わります。

2. タスク分析:タスクディクショナリから必要なタスクを選ぶ

タスクディクショナリをダウンロードし、1で整理した業務領域に当たるタスクを選びます。最初から細かく選ばず、中分類レベルで当たりをつけてから小分類に落とすと迷いにくくなります。

3. 役割定義:タスクを役割(ロール)ごとに束ねる

選んだタスクを「PM」「アプリケーション開発」「インフラ運用」などの役割に割り当てます。これが各役割の職務定義になり、評価や育成の単位になります。

4. 評価項目と判定基準を決める

タスク小分類ごとに用意されている評価項目を、自社の業務内容に合わせて修正・追加します。判定基準は自社で設計しますが、次のような段階設定が一般的です。

レベル(設定例)判定基準
レベル4他者を指導できる
レベル3独力で実施できる
レベル2サポートがあれば実施できる
レベル1知識はあるが実務経験はない
レベル0知識・経験ともになし

5. 試行と確定:小さく回してから全社展開する

一部のチームで診断を試行し、項目の過不足や判定のばらつきを確認してから確定します。確定後も、年1回程度は事業の変化に合わせてタスクの入れ替えを行うと、スキル管理が形骸化しません。

iCDを活用するメリットと注意点

定義済スキル標準(iCD)の具体例
メリット注意点
スキル項目をゼロから作らなくてよく、短期間で標準化できる項目数が多いため、絞り込まずに使うと運用が回らない
国が整備した共通の物差しなので、社内外で説明しやすいIPAによる更新は2022年版で終了しており、新技術の項目は自社で補う必要がある
タスクとスキルが紐づいているため、育成すべきスキルが特定しやすい評価項目はIT業務向けで、自社固有の業務知識は別途定義が必要
スキルマップやアサイン判断の項目としてそのまま転用できるExcelで約1,200タスク×人数を管理すると更新負荷が高くなる

とくに最後の点は見落としがちです。iCDで項目を揃えても、評価結果をExcelで集計し続けると、更新のたびに手間がかかり、最新のスキル状況が見えなくなります。項目の設計はiCD、日々の記録と検索はスキル管理ツール、と役割を分けるのが現実的です。

定義済スキル標準・iCDに関するよくある質問

iCDは今でも使えますか?

使えます。IPAの事業は2022年度で終了しましたが、iCD2022までの資料は公開されており、ダウンロードして自社のスキル管理に利用できます。2018年度以降の普及活動は民間団体に委ねられています。

ITSSとiCDはどちらを使えばよいですか?

職種とレベルで人材像を示したいならITSS、業務単位でスキルを細かく管理したいならiCDが向いています。iCDはITSSの内容を取り込んでいるため、両方を併用する形が多いです。

IT企業以外でも使えますか?

UISSを取り込んでいるため、ユーザー企業の情報システム部門でも使えます。ただし営業や製造などIT以外の業務は対象外なので、その部分は自社で項目を定義する必要があります。

まとめ

まとめ ステップ

定義済スキル標準とはITSS・UISS・ETSSの総称で、iCDはこれらを統合してタスクとスキルを辞書化したものです。自社に必要なタスクを選び、役割に束ね、判定基準を決めて試行する、という手順で導入できます。

iCDで項目を揃えたあとの課題は、評価結果をどう記録し、検索し、更新し続けるかです。人数や項目が増えてExcelでの管理に限界を感じたら、スキル管理ツールの比較から始めてみてください。