企業の競争力を高めるには、人的リソースを適切にサポートする体制が望まれます。
今回は人的資源管理の役割や人事労務管理との違い、5つの人的資源管理モデルに関するポイントをこの記事ではITエンジニアを200名以上抱え、日々エンジニアのスキル管理を25年以上経験してきて効率化し、リソース管理ツールを開発・運用している弊社、DXサービス事業推進部 佐々木舞美が解説します。
課題や問題点、人的資源管理を推進する企業事例もお伝えするので、人材育成の参考になる内容です。
人的資源管理の定義

人的資源管理とは経営目標を達成するために人的資源を活用すること、および活用に向けて制度を設計・運用することです。
人材を経営資源の一つとして捉え、スキルや目標、モチベーションなどを適切に管理することを意味します。
人的資源管理は英語でHuman Resource Management(ヒューマン・リソース・マネジメント)といわれ、頭文字をとって「HRM」とも呼ばれます。
ヒトの成長は企業の成長につながるとして、各企業は従業員が成長できる仕組み作りを推進しています。
人的資源管理の重要性

仕事を効率化できる
人的資源管理によって仕事の効率が上がります。
人的資源管理ではスキルや業務経験、実績などの情報から的確な人員配置を行います。
従業員の強みや特性を活かした人員配置によって、スムーズな業務進行、納期の短縮化、品質の確保が可能です。
経営目標を達成するためにも、仕事の効率化は非常に重要な要素となります。
人材育成につながる
人的資源管理は人材育成の効果をもたらします。
なぜなら従業員の得意・不得意、不足しているスキルを可視化して対処できるからです。
人的資源管理ではナレッジ(知識やノウハウ)を共有できるので、一から十まで教えることなく効率的に人材育成を進められます。
人的資源と人的資本の違い
人的資源と類似する言葉に、人的資本があります。
用語 | 英語 | 特徴 |
人的資源 | Human Resource(HRM) | 経営リソース(ヒト・カネ・モノ・時間)の中で「ヒト」が最重要という考え方。 |
人的資本 | Human Capital(HC) | 人が持つスキルや知識、ノウハウといった「能力」が最重要という考え方。 |
人的資源はヒトのサポートを積極的に行い、効率的に業務を回すことを目的としています。
人的資本は経営目標を達成するため、必要なスキルや業務経験を伸ばすことが特徴的です。
人的資源管理と人事労務管理の違い
人的資源管理と人事労務管理の違いをご存知でしょうか。
人事労務管理は人材を集団的なコストと捉えたうえで、 規範と慣習、規則を重視する管理活動です。
人的資源管理が提唱される前の考え方であり、聞いたことがあるという方は多いかもしれません。
人事労務管理は「Personal Management」と呼ばれ、略して「PM」とも言われます。
人的資源管理のモデル

人的資源管理には5つのモデル概念があります。
ここでは、人的資源管理のフレームワークについて説明します。
ハーバードモデル
ハーバードモデルは、1980年代のハーバード大学で行われた研究から生まれたHRMです。
ハーバードモデルの基本要素 |
・従業員への影響 |
・人的資源のフロー |
・報酬システム |
・職務システム |
4つの要素をもとに従業員のスキルやコミットメントを向上させ、組織全体の成長を促すことが目的です。
社員の心理状態にも注視している点が、ハーバードモデルの大きな特徴といえます。
ミシガンモデル
ミシガンモデルは1980年代に発表された著書「戦略的人的資源管理」で提唱されています。
- 採用と選抜
- 人材評価
- 人材開発
- 報酬
上記のサイクルを戦略的に回して、組織と従業員のパフォーマンスを向上させるという特徴があります。
ミシガンモデルは経営戦略や組織構造といった、経営面との互換性を高める点が大きな特徴です。
高業績HRM(AMO理論)
AMO理論は人的資源管理の理論の中でも代表的なモデルに位置します。
- 能力(Ability)
- モチベーション(Motivation)
- 機会(Opportunity)
AMO理論は上記の3要素の向上が、企業の持続的競争において優位性が保てるとしています。
高業績HRM(PIRK理論)
PIRK理論は、4つの側面から構成される人的資源管理モデルです。
- 権限の委譲(Power)
- 情報の共有(Information)
- 公平な報酬(Reward)
- 従業員に帰属する知識(Knowledge)
PIRK理論は従業員のエンゲージメントやモチベーションを高めて、離職率を低下させることを目的としています。
タレントマネジメント
従業員のタレント(才能や素質)が最重要と考えて、タレントを最大限に活用する人材マネジメント手法です。
タレントマネジメントの目標は人事戦略を反映させて、リーダーシップのある人材を育成することにあります。
- 人材採用
- 人材育成
- 人材配置
- 人事評価
タレントマネジメントは、経営目標を達成するための戦略的な人事施策といえるでしょう。
人的リソース管理の課題と問題
企業の立場が上になることがある
企業と従業員が対等な立場に立つことは難しいです。
例えばハーバードモデルでは、経営戦略において組織と従業員間の調和を目指していますが、組織側が上位に立つことがあります。
そうなると従業員は不満があっても伝えられないこともあり、能力を十分に発揮できない可能性が高まってしまいます。
ヒトは思い通りに動かない
経営リソースの中で、人的リソースを管理するのはもっとも難しいです。
ヒトには感情や意思があり、思い通りに動くとは限らず問題も起こしやすいのです。
人的資源管理に絶対的な手法はありませんが、企業は人的資源管理のフレームワークを活かして主体的に動ける人材育成を心がける必要があるでしょう。
人的資源管理の活用方法と企業事例
日産自動車
2011年にビジネスリーダーの発掘・育成を目的に、当時の社長カルロス・ゴーン氏がタレントマネジメントを導入しました。
キャリアコーチを中心に人材の配置転換や能力開発をサポートし、各部署と連携しながらハイポテンシャルパーソン(HPP)の育成に努めています。
日産自動車は「自らのキャリアは、自らデザインする」という考え方のもと、人的資源管理を積極的に推進しているのが特徴的です。
具体的には企業業績で評価・報酬を決定する「管理職評価制度」、褒める文化を広めるための「表彰プログラム」などが挙げられます。
サムスン電子
サムスン電子は「人材第一」という経営哲学のもと、デジタルグローバル人材の雇用・育成に力を入れています。
次世代の人材を発掘するため、サムスンMBA制度を設定し「ソシオMBA」と「テクノMBA」の2つの過程を導入しています。
人材育成には一人あたり約1億ウォン、日本円にして約1,000万円を投資、世界各地で研鑽を積ませるというスケールの大きさが特徴的です。
モバイル端末シェアランキングではアップルと常に首位争いを繰り広げていることから、育成プログラムの効果が伺えます。
ツールを使って評価運用を改善する重要性

人的資源管理では、人材をサポートして経営目標を達成する側面があります。
その際に、人材をより効果的に運用できるのが「人的資源管理ツール」です。
人的資源管理ツールの活用は、適切な評価運用が可能となり従業員のモチベーション・エンゲージメントを向上できます。
モチベーションの向上は学習や研修への励みとなり、スキルアップによって企業の売り上げに大きく貢献します。
エンゲージメントが高まれば会社に定着しやすくなり、人材の流出を防ぐことが可能です。
これまでの評価制度は、上司や人事担当者の経験や勘を頼りにした「主観的」な評価が問題視されていました。
人的資源管理ツールで従業員のスキルや業務経験、要望などを一元管理すれば、正確な情報に基づいた「客観的」な評価が可能となります。
人手不足だからこそツールの力で効率的に従業員をサポートして、企業の競争力アップにつなげることが大切です。
まとめ
この記事では人的資源管理を理解するための概要や重要性、5つの人的資源管理モデルを紹介しました。
正しい人的資源管理は従業員の成長を促し、企業の利益向上につながります。
この機会に自社の人事制度を見直して、さらなる企業成長を目指してください。