ITエンジニアや社員のスキル管理ツールfapi(ファピー)を提供する株式会社エフ・ディー・シーのDXサービス事業推進部 佐々木舞美が、200名以上のITエンジニアのスキル管理を25年以上行ってきた実務経験をもとに、ISO9001に基づく教育訓練計画・教育訓練記録の作り方を解説します。
ISO9001では、企業で製造する製品の品質向上のため、力量管理(教育訓練)が要求事項に含まれています。この記事ではISOの規格(JISQ9001:2015)に基づいて、教育訓練計画と教育訓練記録の違い、記録に書くべき項目、計画書の立て方まで、実務担当者の目線で分かりやすくお伝えします。ISO教育訓練の実施を任された方は、ぜひ参考にしてみてください。

YouTubeチャンネルにて、弊社代表の和田崇紀による「スキル管理・アサイン管理」を最適化するノウハウも共有しています。コチラも合わせて参考にしてくだい。
ISO9001でいう教育訓練とは?

ISO9001(品質マネジメントシステム)でいう教育訓練とは、規格7.2項にある「力量」の確保・維持を目的とした活動のことです。業務に必要な能力(技能・経験・知識・資格)を組織として把握し、不足があれば教育や訓練で補い、その結果を文書で残すことが求められます。
ISO9001では、力量に関して次の4つを要求しています。
| 要求事項 | 内容 |
|---|---|
| a)必要な力量の明確化 | 品質マネジメントシステムのパフォーマンスや有効性に影響を与える業務を行う人に必要な力量を明確にする |
| b)力量の確保 | 適切な教育・訓練・経験に基づいて、それらの人々が力量を備えていることを確実にする |
| c)処置と有効性評価 | 必要な力量を身につけるための処置をとり、その有効性を評価する |
| d)文書化した情報の保持 | 力量の証拠として、適切な文書化した情報を保持する |
出典:JISQ9001:2015 品質マネジメントシステム|日本産業規格の簡易閲覧
簡単にまとめると、教育訓練では「ニーズに応じた実施」「有効性の評価」「文書化して管理」の3点が要求されているということです。
ISO9001の教育訓練計画と教育訓練記録の違い
ISO9001の文書化要求を満たすには、「教育訓練計画書」と「教育訓練記録」の2つを作成・運用するのが一般的です。両者の役割は明確に異なります。
| 項目 | 教育訓練計画書 | 教育訓練記録 |
|---|---|---|
| 目的 | 必要な力量を計画的に身につけさせる | 実施した教育訓練の証拠を残す |
| 作成タイミング | 事前(年度初め・計画立案時) | 事後(実施直後) |
| 主な記載内容 | 対象者・目標・内容・スケジュール | 実施日・参加者・内容・評価結果 |
| 確認者 | 品質責任者・管理者 | 内部監査員・審査員 |
教育訓練計画書は「これから何をするか」、教育訓練記録は「何をしたか・結果はどうだったか」を示すドキュメントです。どちらか片方だけでは不十分で、両者をセットで運用することがISO9001の要求事項を満たす近道になります。
ISO教育訓練記録に記載すべき7つの項目
教育訓練記録のフォーマットに厳密な決まりはありませんが、内部監査員や審査員が確認しても過不足のない情報を含めることが重要です。実務で活用しやすい7つの項目を整理しました。
| 項目 | 記載内容の例 |
|---|---|
| 1. 実施日 | 2026年〇月〇日 |
| 2. 教育訓練のテーマ | 「品質管理基準の理解」「ISO内部監査員養成」など |
| 3. 対象者・受講者 | 受講者の氏名・所属・役職 |
| 4. 講師・実施者 | 講師名・所属(社内外を問わず) |
| 5. 実施方法 | OJT/集合研修/e-ラーニング/外部セミナーなど |
| 6. 教育内容の概要 | カリキュラム・使用教材・所要時間 |
| 7. 有効性の評価結果 | テスト結果・実技確認・上長判定など |
特に重要なのは「7. 有効性の評価結果」です。ISO9001の要求事項cにある通り、教育訓練を実施しただけでは不十分で、「その結果、必要な力量が身についたか」を評価して記録することが求められます。理解度テスト、実技チェック、上長による確認など、評価方法は組織の実態に合わせて選定しましょう。
教育訓練計画の立て方【5つのポイント】
ISO9001の要求事項を満たす教育訓練計画を立てるには、対象者のニーズと目標を明確にしたうえで、内容・方法・評価基準を体系的に決めていく必要があります。実務で押さえておきたいポイントを5つに整理しました。
1. 教育計画の目的を明確にする
「品質目標の達成のため」「特定の規格認証取得のため」など、教育訓練の目的を最初にはっきりさせます。目的が曖昧だと、内容や評価基準にブレが生じ、計画書が形骸化します。
2. 組織全体で必要な力量を洗い出す
業務フローや作業マニュアルを確認しながら、各業務にどんな力量(技能・経験・知識・資格)が必要かを棚卸しします。現場担当者へのヒアリングを併用すると、より実態に即した洗い出しが可能です。
3. 重要度・緊急度が高い力量から計画化する
すべての力量を一度に網羅しようとすると、計画が膨大になり実行に移せません。業務への影響が大きいもの・欠員リスクの高いものから優先的に教育訓練計画に組み込みましょう。
4. 計画は表形式でまとめる
対象者・テーマ・実施時期・実施方法・評価基準を一覧表にすると、進捗管理や監査対応がスムーズです。スプレッドシートやスキル管理ツールでの管理が、エクセルや紙より効率的です。
5. 定期的に評価と見直しを行う
計画は立てて終わりではありません。実施後に有効性を評価し、次年度の計画に反映するPDCAサイクルを回すことで、組織全体の力量が継続的に向上します。
ISO9001が教育訓練で「要求していない」こと
意外と誤解されやすいのが、ISO9001が要求していない範囲です。担当業務に関連しない教育訓練や指導、記録は要求されていません。JISQ9001:2015にも、業務に関連しない教育訓練や指導をしてはいけないという記載はありません。
社員のキャリア形成のために実施している基礎研修や、視野を広げるための講座などは、ISO上は必須ではないものの、組織の成長には大きく寄与します。「ISOの要求事項を満たす最低ライン」と「組織として実施したい教育」を切り分けて整理することで、無理のない運用ができます。
教育訓練の管理を効率化するスキルマップ

教育訓練計画と記録を継続的に運用するには、スキルマップ(力量管理表)の活用が欠かせません。スキルマップとは、社員一人ひとりの保有スキルや力量を一覧化したツールで、誰がどの力量を備えているか、誰に何の教育が必要かを一目で把握できます。
これまでスキルマップはエクセルや紙で作成されることが多く、次のような課題を抱えていました。
- 部門ごとにフォーマットが異なり、組織全体で力量を比較できない
- 集計作業に時間がかかり、担当者の負担が大きい
- 属人化しやすく、担当者の異動や退職時に混乱が生じる
- 最新の状態に保つのが難しく、ISO監査時に慌てる
近年は企業のDX化が進み、クラウドツールでスキルマップを管理する企業が増えています。リアルタイムで最新情報を反映でき、組織横断での力量比較や教育訓練計画への連携も容易になるのが大きなメリットです。
ISO教育訓練と力量管理を効率化したい方へ

ISO9001の教育訓練計画・記録の運用は、「必要な力量を可視化できているか」が成否を分けます。力量管理が属人化していたり、エクセルでの管理に限界を感じていたりする現場では、まず力量管理そのものの仕組みを見直すことが、教育訓練の質を高める第一歩です。
力量管理の基本的な考え方や、運用を効率化する方法については、関連記事で詳しく解説しています。ISO審査対策と日常の人材育成を両立させたい方は、あわせてご確認ください。
