ITやDXの急速な普及に伴い、ますます効率的・効果的な人材育成が必要となっています。
自社で効率的に人材育成を進めるためには、人材のスキルを把握して何が必要かを可視化することが大切です。
この記事ではITエンジニアを200名以上抱え、日々エンジニアのスキル管理を25年経験してきて効率化し、
スキル管理ツールを開発・運用している弊社、DXサービス事業推進部 佐々木舞美が人材育成に活用される「定義済スキル標準(iCD)」の要点を解説します。
定義済スキル標準(iCD)の概要と具体的な活用方法が理解できるので、担当者の方は参考にしてください。
定義済スキル標準(iCD)とは?

定義済スキル標準(iCD)とは企業が成長するために必要な、人材の能力(スキル)と業務(タスク)を明確に定義した指標です。
主にIT技術者やロボット技術者など高度なスキルが求められる職種が対象ですが、マーケティングやセールスといった一般的な職種も含んでいます。
定義済スキル標準(iCD)を活用すれば時間をかけずにスキルの標準化ができるほか、従業員のスキルを把握・評価したり人材育成を効果的に実施できたりします。
iCDはiコンピテンシ・ディクショナリの略で、コンピテンシには「優れた成果を創出する個人の能力や行動特性」、ディクショナリは「辞書」という意味があります。
自社で積極的に定義済スキル標準(iCD)を推進して、効果的・効率的にDX人材の育成を目指してください。
タスクディクショナリとスキルディクショナリの活用

定義済スキル標準(iCD)では、ITの活用に重要な「タスク」と「スキル」を体系的にまとめています。
IPAが公開した定義済スキル標準(iCD)では、それぞれ以下のように定義づけています。
タスクディクショナリ | 求められる機能や役割を「課される”仕事”」として定義したもの |
スキルディクショナリ | タスク(課される”仕事”)を支える能力(スキルや能力)を整理したもの |
タスクディクショナリ
タスクディクショナリは「タスク大分類」「タスク中分類」「タスク小分類」「評価項目」の4層構造です。
- 「タスク大分類」・・56分類
- 「タスク中分類」・・約380分類
- 「タスク小分類」・・約1,200分類
- 「評価項目」・・約4,400項目
スキルディクショナリ
スキルディクショナリは「スキルカテゴリ」「スキル分類」「スキル項目」「知識項目」の4層構造です。
- 「スキルカテゴリ」・・5分類
- 「スキル分類」・・88分類
- 「スキル項目」・・約480項目
- 「知識項目」・・約10,200項目
定義済スキル標準(iCD)の具体例

ここでは、定義済スキル標準(iCD)の具体例4つを紹介します。
ITスキル標準(ITSS)
ITスキル標準(ITSS)は高度なIT人材の育成を目的とした、ITに関する能力を測定する指標です。
11の職種とその下に35の専門分野を定義し、7段階のスキルレベルが設定されています。
現在のスキルレベルを数値化することで、どのITスキルを強化すべきかが簡単に理解できます。
リサーチ・アドミニストレーター(URA)スキル標準
大学などの研究組織において研究資源の導入促進、研究活動の企画・マネジメントといった業務をサポートする人材に必要な指標です。
スキル標準は22の業務と、各業務に必要な知識と能力を示したスキルカードから構成されます。
情報システムユーザースキル標準(UISS)
UISSはITを活用する企業の、ITスキルを測定する検定試験のことです。
UISSは次のドキュメントから構成されます。
- タスクフレームワーク
- タスク概要
- 機能・役割定義
- 人材像とタスクの関連
- 人材像定義
- キャリアフレームワーク
- 研修ロードマップ
なお、UISSの活用手順はIT部門の役割定義、要員スキル評価、人材育成計画の3ステップです。
iコンピテンシ・ディクショナリ(iCD)
定義済スキル標準(iCD)はITSS、ETSS、UISSの3つのスキル標準を参照にしています。
定義済スキル標準(iCD)のメリットは以下の3つです。
- 人材のスキルを把握・評価できる
- 自社に不足している要素が明確になる
- DX人材育成によって自社成長につながる
デジタルスキル標準(DSS)とITスキル標準(ITSS)の違いは何ですか?

デジタルスキル標準(DSS)はITスキル標準(ITSS)の後継にあたるもので、2022年にIPAならびに経済産業省が公開しました。
ITSSはIT人材の育成に活用され、ITアーキテクトやシステム開発など幅広い職種・専門分野をカバーします。
DSSがITSSと異なる点は、IT技術(ハードスキル)以外にコミュニケーション力やデータ分析能力といった「ソフトスキル」にも焦点を当てていることです。
また「DX推進スキル標準の策定方針」の5つ目のポイントには、評価指標にITSSのレベル4を想定とあります。
つまり、 ITSSのレベル4をクリアしていなければ、DSSには対応できないと捉えることができます。
定義済スキル標準(iCD)の活用方法

ここでは、定義済スキル標準(iCD)の活用方法についてまとめています。
タスクの選択と管理
iCDを活用した最初の作業はタスクの選択と管理です。
まずは経営戦略や事業目標から、自社に必要なタスクを洗い出します。
iCDのタスクディクショナリをダウンロードして「タスクプロフィール」「タスクプロフィール×タスク対応表」を参考に、タスクを整理してください。
参考:iCD2017ポケットハンドブック 参考:タスクディクショナリ_2016
評価項目と診断基準の調整
タスクの選択と管理ができたら評価項目と診断基準を調整します。
タスクディクショナリにはタスク一覧の小分類ごとに複数の評価項目が設定されています。
評価項目はそのまま活用する時もありますが、自社の業務内容に沿って変更したり追加したりしてください。
診断基準も同様に、自社の評価制度に合わせて変更や追加を行いましょう。
なお、iコンピテンシ・ディクショナリでは、タスク評価の診断基準例を次のように設定しています。
診断レベル | 診断基準 |
L4 | 他者を指導できる、またはその経験あり |
L3 | 独力で実施できる、またはその経験あり |
L2 | サポートがあれば実施できる、またはその経験あり |
L1 | トレーニングを受けた程度の知識あり |
L0 | 知識、経験無し |
参考:iCD2017ポケットハンドブック
評価項目と診断基準を調整することで自身のレベルを可視化でき、目標が立てやすくなります。
タスク診断の実施と改善
タスク一覧と診断基準を策定したら、実際に運用する前に一度でも試行してください。
試行することで項目の設定ミスや漏れを見つけられ、次回以降からスムーズに運用できるはずです。
iコンピテンシ・ディクショナリのブラッシュアップを重ねながら、実施と改善を繰り返して人材育成に活用します。
このように定義済スキル標準(iCD)を活用することで、効率的に人材のレベルを把握して人材育成を行えます。
まとめ
本記事では定義済スキル標準(iCD)の概要と具体例、活用方法について解説しました。
定義済スキル標準(iCD)は、企業成長に必要な人材のスキルとタスクを明確に定義した指標です。
定義済スキル標準(iCD)を活用することで、人材のスキルレベルを把握して的確な人材育成につなげることができます
本記事とiCDのタスクディクショナリを参考にしながら、自社のDX化を推進してください。