プロジェクトを成功に導く重要な役割を担う、プロジェクトマネージャー(PM)。 リソース管理やプロジェクト管理はもちろんのこと、経営層や顧客とプロジェクトメンバーの板挟みになって調整する力も必要とされ、日々の業務に胃を痛めている……と話す方も散見されます。 本記事では、DX化が推し進められている昨今の背景も踏まえ、プロジェクトマネージャーがより快適に、効率よく仕事を進めていく方法を考えていきます。
ITエンジニアを150名以上抱え、日々エンジニアのスキル管理・更新を25年経験してきて効率化しながらISO9001を取得している弊社、DXサービス事業推進部 佐々木舞美が解説いたします!
▶ 前置きや必要スキルの確認は十分!なおかつお忙しい方は、ぜひとも『PM向けおすすめのDXツール』記事からお読みくださいませ。
おさらい―プロジェクトマネージャーとは

プロジェクトマネージャーの役目は、その名の通りチームをまとめ、部下のスキル管理やアサイン、プロジェクトを管理することではありますが、一口にそうは言ってもアサインやプロジェクトの遂行に責任を持つ立場として、高いコミュニケーション能力や問題解決能力が必要とされます。なぜなら、以下のような幅広い対応を求められるからです。
プロジェクトマネージャーの業務内容
▶ 責任者として、案件の受注や顧客折衝を担う
▶ 人材のスキルやリソース・アサイン状況を把握し、プロジェクトメンバーを選定する
▶品質の管理、納期や進捗の管理、コストの管理
このように、幅広い業務をこなしていくとなると、それに伴ってどうしても日々の雑務も増えてきます。
プロジェクトメンバーの業務負荷やリソースを考えるとともに、自分自身の負荷とも向き合う必要が出てきます。
プロジェクトマネジメントに重要なこと ― 負荷と向き合う ―【組織の役割の違い】
ここで、プロジェクトマネジメントで重要なことをおさらいしていきます。
プロジェクトマネージャー(PM)としての立場に落ち着いてくると、顧客やメンバーから段々と頼られる機会が増え、気づかないうちに仕事が溜まっていた……ということがありがちです。
そういった負荷を軽減するためにも、プロジェクトマネジメントで重要となってくるのは組織体制です。ここで一旦、組織体制のおさらいと、PM・PL・PMOの役割の違いを明確化しておきましょう。
組織体制図から見る、プロジェクトマネージャー(PM)の立ち位置
プロジェクトマネージャー(PM)は、複数のチームをまとめる役目を負うのと同時に、プロジェクトオーナーやプロジェクトリーダーの間に立つ立場でもあります。プロジェクトマネジメントオフィス(PMO)の力も借りながら、チームとしてのまとまりを俯瞰しつつ、多数の人員を管理するスキルが求められます。

PM・PL・PMO
混同されがちな、PM(プロジェクトマネージャー)・PL(プロジェクトリーダー)・PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)の役割の違いは、以下の通りです。
今回は、プロジェクトマネージャーの視点から解説していきます。
プロジェクトマネージャー(PM)
本記事の主役であるPMことプロジェクトマネージャーは、前項の組織図で示す通り、プロジェクトの各チームをまとめ、さらにプロジェクトオーナーと呼ばれる上位層の方と密にやり取りする重要な立場です。仕事内容は幅広いですが、プロジェクトの指揮を取る立場として、スキルマップをもとに人員をアサインし仕事の進め方をデザインすることができる、やりがいのある役割とも言えます。
プロジェクトリーダー(PL)
PLは、現場のチームの総括としてプロジェクトを遂行し、完成させる役割を担っています。全チームを俯瞰してプロジェクトを管理する立場であるPMに比べて、現場での状況をより細かく把握しやすい立場にいるのがPLです。技術者一人一人の心身のコンディションや、保持スキルと作業レベルの差異、進捗具合などが把握しにくく、スケジュール管理等に頭を悩ませている場合は頼りにすべき存在です。
プロジェクトマネジメントオフィス(PMO)
PMOの役割は、プロジェクトにおける予定などの調整や会議のファシリテーターとしての役割を担うこと、進捗状況やコスト管理、チームの人材の調整など多岐にわたります。一見、PMの仕事と被るように思えますが、PMOの本来の役割とは、PMの後方支援者としてプロジェクトの質を高めることにあります。PMにとっては心強いパートナーとなりますので、ぜひ密にコミュニケーションを取ったり、双方が効果的に機能する組織体制を整えたりと、PMOとの連携を強めていくとよいでしょう。
PM、PL、PMOの細かい役割の違いについて知りたい際は、こちらの記事も参考にしてください。
以上に示した通り、組織図や役割を改めて確認してみると、プロジェクトマネージャー(PM)には頼りにできる人物が沢山いることが分かります。
仕事の範囲は幅広いですが、一人で抱え込むことなく、サポートしてくれるメンバーを十分にアサイン(配置)し、指示出しや相談がしやすい環境を作っていきましょう。
体制をデザインできるというのも、PMという立場が持つ責任であり、特権でもあります。
いざ、プロジェクトマネジメントの作業効率化! 人材管理(スキル・アサイン)、スケジュール管理に役立つノウハウ

プロジェクトマネージャー(PM)は、プロジェクトを先導する立場として管理する内容がとても多く、要員管理(アサイン管理)やスケジューリング自体の工数や、資料を作成する工数が莫大になりがちです。まずは、こうした『管理業務』に関するノウハウや必要なスキルを再確認し、作業時間の短縮につなげる参考になればと思います。
『PMBOK(ピンボック)』――というナレッジがあります。既に馴染み深い方も多いかと思われますが、プロジェクトマネジメントに関するノウハウや手法を体系立ててまとめた世界的なナレッジです。PMとして現在ご活躍されている方の中には、プロジェクトマネージャー試験(IPA)を受験された方もたくさんいらっしゃるかと思いますが、IPA試験でもよく出題されます(余談ですが、筆者は脳内で『ぴんぼけ』…と呼んで暗記してました。『ピンボック』です)。この項では、PMBOKをベースとして、それを実践的な場面といかに絡めていくかという視点で、スキル面での業務効率化を考えてゆきます。
プロジェクトマネージャー必須スキル【クオリティ、品質管理】

品質マネジメントの観点からおさらいしてゆきます。品質マネジメント計画では、下記に挙げる品質コスト(Cost of Quality)を確認すべきとされます。
- 予防コスト:欠陥不良を発生させない計画にかけるコスト
- 評価コスト:テストのためにかける予算
- 内部不良コスト:納品する前の予期せぬ欠陥を修正するためのコスト
- 外部不良コスト:納品した後、成果物が要求を満たしていなかったときにかかるコスト
特に、欠陥防止のためには評価コストに属する『テスト』という工程が重大な役割を担います。ただし、テストにかかる工数コストは莫大であり、なおかつ不具合の修正と再試験にかかる工数は事前に読みづらいものです。
そこで、評価コストを抑えるために重要となってくるのは、上流工程で欠陥や不具合を発見することです。そのための対処法を下記に列挙します。
・上流工程で制作される成果物に明確な品質目標を定めること(例えばレビュー指摘密度、テスト密度、バグ密度)
→不具合防止のための基本として、曖昧でない評価基準を定めることが大切です。ただし、評価基準や評価項目が不足した状態で基準が凝り固まってしまうと、かえって後に不具合を発生させる原因ともなり得ます。レビュー時に、レビュワーが現在の評価基準では評価しきれない部分への指摘や、疑問点や懸念点を口に出しやすい環境を作っていく事も大切です。
・品質に対する役割と責任の明確化
→誰がどういった面の品質に責任を持つ役割を負うのか、明確化しておくことで後の対処がスムーズです。
・品質ツールの活用
→品質管理はかなり手間のかかる業務ですが、コストに見合うのならばぜひツールを活用していきましょう。役割と責任のありかが一目で確認でき、評価基準や評価項目がチームメンバーや他のPMとも共有できるような組織全体で一元管理できるツールがおすすめです。
(出典)PMP PMBoK 第6版を理解する 7.品質マネジメントについて – Masa engineer blog
(出典)PMBOKとは?プロジェクト管理の基礎を学ぼう | 株式会社リンプレス
プロジェクトマネージャー必須スキル【人材管理のスキル】
プロジェクトを遂行するために、PMにはチームを組織し、育成し、管理する力が求められます。人的資源マネジメントの観点では、下記のプロセスで人材管理を行います。人材管理の効率化のために利用できるノウハウを踏まえてご紹介します。
人的資源マネジメント計画(アサイン計画・管理など)
要員それぞれの役割と責任の範囲・責任に見合った権限を決め、要員の調達方法や、育成方法を決めていくプロセスです。人的資源マネジメント計画書には、RACIチャートといった組織図と職位記述書の技法を用います。
SES業界もIT人材(SE)の確保の需要は高まると考えられます。
<RACIチャート>人員の役割を明確にするツール
A.)RACIチャートに用いられる4つの役割
- 実行責任者(Responsible) 作業を実行することに責任を負います。
- 説明責任者(Accountable) 作業の進歩状況を説明することに責任を負います。
- 相談対応(Consult) 作業の実行を支援し、必要なアドバイスを行います。
- 情報提供(Inform) 作業の進歩状況の報告をします。
B.)役割をマトリクス方式で割り当てすることで、要員が持つ権限や作業範囲を明確化し、一目で確認ができる

<人的資源マネジメント計画書>人的資源の定義・配置・マネジメントなどのガイドライン
人材資源マネジメント計画書は、「役割と責任」「プロジェクトの組織図」「要員マネジメント計画書」で構成されます。
下記に挙げる要員マネジメント計画書の内容を明確化し、レビューを行い、いつでも見直しできるようにしておくことは、後々人材管理における問題が発生した際に重要な道標となります。
- 要員調達 調達先や作業場所、コストなどを明記します。
- 資源カレンダー 作業期間や調達時期など、要員の可用性を明記します。
- 要員ヒストグラム 月日を横軸、作業時間や要員数を縦軸にしたヒストグラム。
- 要員離任計画 要員が離任する際の方法や時期を明記します。
- 表彰と報奨 表彰と報奨の基準と運用計画を明記します。
- トレーニングのニーズ 要員のスキル強化のための計画を明記します。
- 法令順守 守るべき法令とその運用を明記します。
- 安全 安全や健康などを考慮した方針を明記します。
プロジェクトチームのメンバー編成(アサイン計画・管理)
人的資源マネジメント計画書の内容に沿って、組織を作っていくプロセスです。プロジェクトに必要なスキルを持つメンバーをアサインするために、外部も含めて様々な要員提供者との交渉などが必要になってきます。要員探しの際には、人員のスキルやアサイン状況を横断検索できるツールや、スキルシートの用意があると効率化を図ることができます。
アサインした要員はすぐ把握できるように、プロジェクトにおける要員のアサイン状況を明記した<資源カレンダー>を作成しておくと、どの要員がいつプロジェクトに参加できるのかが明確化します。
<資源カレンダー>プロジェクトで必要となる資源(要員・機器・物質・施設など)ごとに、利用可能である時間枠を示したもの。

プロジェクトチームのメンバー育成
チームパフォーマンスの向上のために重要なのがメンバーの育成です。オープンなコミュニケーションの促進や、適切な表彰と報酬の設定などがチームの強化につながります。
このプロセスでは、「タックマンモデル」というフレームワークの活用により、チームの状況を明確にし、チームの強化活動の効果を把握しやすくなります。
<タックマンモデル> チームの成長を以下の4つの段階に分けて考えるフレームワーク
- 形成期 メンバーはお互いのことを知らず、共通の目的等もわからず模索している段階。
- 混乱期 役割や責任について意見を持つようになり、対立が生じる段階。
- 統一期 自身の行動が確立され、他人を受容し、信頼関係が生まれる段階。
- 機能期 チームとしての結束力が生まれ、チームワークが発揮される段階。
- 散会期 作業の完了や目的の達成に伴い、プロジェクトから離任する段階。
プロジェクトマネージャー必須スキル【プロジェクトチームの人材マネジメント】
人材マネジメントは、プロジェクトのパフォーマンスを確認し、課題を解決していくプロセスです。チームは様々な要員から構成されているため、メンバーそれぞれの意見や方針に衝突が生じることも考慮しておく必要があります。

<コンフリクト・マネジメント>は、そういった衝突(コンフリクト)に対処することです。コンフリクト・マネジメントの代表的なものとして以下の解決策が挙げられます。このように解決策を整理し、どの策を取るのが適切か、チームメンバー皆がチーム全体の課題として考えていく事が大切です。
- 強制 他者を押しのけ、自分の観点を強制的に押し付けます。
- 撤退 発生している問題や潜在的問題を先送りにします。
- 鎮静 同意できる意見を強調し、落とし所を探ります。
- 妥協 両当事者がある程度満足できる案を模索します。
- 協力 異なる意見や複数の視点を取り込みます。
- 問題解決 様々な手段を検討して、両当事者が問題解決に取り込みます。
プロジェクトマネージャー必須スキル【スケジュール管理のスキル】

プロジェクトの計画プロセスにおいて、PMBOKの「スケジュール」知識エリアでは5つのプロセスが定義されています。
- スケジュール・マネジメントの計画
- アクティビティの定義
- アクティビティの順序設定
- アクティビティの所要期間見積もり
- スケジュールの作成
このプロセスを基準に、要求事項を満たす成果物の作成や、それに付随する作業をいつ・誰が・どれくらいの時間で行うのかを具体的にしていきます。
スケジュール管理で大切なのは、『無理なスケジュールを立てない』ということです。担当者に作業を割り当てる際には、担当者の能力や生産性なども考慮し、経験の浅いメンバーに無理な作業を割り当てないことが重要です。
出典) PMBOKとは?プロジェクト管理の基礎を学ぼう | 株式会社リンプレス
とはいえ、メンバーそれぞれの保有スキルや経験年数などの情報が把握しきれない状況は起こりがちです。
そこでクラウドツールなどを用い、Excelや紙で属人的に管理されている技術者それぞれの情報を共通化してまとめるとスケジュール・マネジメントをより正確に、効率よく行うことができます。ツールは、社員のスキル情報や作業工数、現在の状況などを社員の一人一人が活発に更新し、プロマネの立場からもそういった情報を閲覧できるものであれば尚よいでしょう。
次の項にて、PMの仕事を楽にするDXツールを紹介していきますので、そちらもぜひ合わせてご覧くださいませ。
各業界でDX化が推進される時代……プロジェクトマネージャーの仕事を楽にするDXツールとは?

これまでの記事でお話してきた通り、プロジェクトマネージャーの業務は多岐にわたり、関与する納品物のクオリティを上げるためには多種多様な資料の作成なども必要になってきます。乱雑な紙の資料の作成に手間取っていたり、属人的な情報管理で人員の状況が不明瞭だったりする場合は、DXツールの利用を早いうちから検討し、面倒な業務を少しでも楽にしてストレスの軽減を図るのもおすすめです。
①チームで使うプロジェクト管理ツール backlog ― nulab株式会社
ソフトウェア開発はもちろん、ウェブ制作や大手広告代理店など様々な業種で使われているタスク・プロジェクト管理ツールです。プロジェクト管理、課題管理、さらにソフトウェア開発業にはありがたいバグ管理システムやバージョン管理にいたるまで、プロジェクト管理に必要な機能がオールインワンで揃っています。メンバーが進捗状況などを更新した際には、SNSのようにメンバーのアイコンつきで更新内容がプロジェクトのホーム画面に表示されるので、親しみやすく、プロジェクト管理が楽しくなりそうなツールです。
②教育・研修運営の効率化も可能なスキル管理ツール 株式会社Skillnote(スキルノート)
人材のスキルの「見える化」をはじめ、育成計画の立案、進捗管理、記録、分析まであらゆる機能を搭載したスキル管理ツールです。ISOやIATF、顧客監査に対応したスキルマップの作成や、教育記録の作成・管理ができるため、必要なスキルに沿った育成計画の作成が容易になります。人材のスキル情報と研修の開催情報を紐づけたい際に、かなり使いやすいツールかと思います。
③項目の自由設定が可能なスキル管理・アサイン管理支援ツール fapi 株式会社エフ・ディー・シー
属人化しているエンジニアのスキル情報やアサイン計画やプロジェクト計画情報を一元管理したい……という思いを実現するため、ソフトウェア開発会社が作成したツールです。
スキル、人材情報管理・アサイン、プロジェクト管理・案件管理の基本機能を備えており、各管理画面の項目は自由に設定できるため、Excelなどの利用中ツールからの移行もしやすくなっています。社員の保有スキルや業務経歴は、管理職または社員それぞれが更新可能で、それらの情報がfapiの中にすべて集約されるため、プロジェクトマネージャーがプロジェクト計画の作成時に案件にマッチした人材を効率よく探すスキルマップを作ることができます。
【まとめ】プロジェクトマネージャーの業務効率化方法とおすすめツール紹介

いかがでしたでしょうか?
プロジェクトマネージャーは、人材の教育やスキル管理・アサイン管理にいたるまで様々な業務に関わり、業務量が多くはありますが、プロジェクトを根本からデザインしていくことのできるやりがいのある役割です。
ぜひ、PMBOKに体系化されているプロジェクトマネジメントの基礎を今一度活用するとともに、DXツールなどを駆使して業務を効率化していきましょう。業務の効率化を図ることは、メンバーとの信頼関係を築き、より適材適所に人を動かしていく楽しさを感じながら、よりよいプロジェクトを作り上げていく手助けになるでしょう。