2025年以降、木造住宅では木造構造計算が義務化されます。
木造構造計算が義務化されることで、住宅業界にはどのような影響が生まれるのでしょうか。
この記事では、木造構造計算の概要から構造計算書の提出が必要・不必要なケース、費用までを解説します。
構造計算に関連する「4号特例縮小」もお伝えするので、今から義務化への対応を進めたい方は参考にしてみてください。
構造計算とは?

構造計算とは、建物の構造安全性を検証したり確認したりするための計算のことです。
会社によっては許容応力度計算と呼ばれ、有償ソフトやフリーソフトを使って計算します。
地震に負けない建築物を作るためには、耐震等級とあわせて構造計算をすることが欠かせません。
仮に耐震等級が同じ住宅でも、構造計算をしているとしていないでは耐震性能が大きく異なるのです。
木造構造計算では、柱や梁にかかる荷重をすべて数値化したうえで算出します。
荷重の種類 | 意味 | 例 |
水平荷重 | 水平方向から受ける荷重のこと | 地震力、風圧力 |
鉛直荷重 | 上から下にかかる荷重のこと | 積雪荷重、積載荷重、固定荷重 |
構造計算/許容応力度計算(ルート1) | 建物にかかる重さを調べて、力がどう伝わりどれほど耐えられるかを調べる |
構造計算/許容応力度計算(ルート2) | ルート1の計算結果に基づき、地震・台風時の層間変形、剛性率、偏心率を計算する |
構造計算/許容応力度計算(ルート3) | 大地震で全壊しないかを調べる |
基本的に、ルート2まで計算したものが「構造計算」として評価されます。
なお、構造安全性を確認する方法は以下の通りです。
- 壁量計算
- 性能評価(品格法)による壁量計算
- 構造計算(許容応力度計算)
木造は木造構造計算が不要?
一般的に、木造の2階建てや平屋は構造計算がされていません。
構造計算をしない大きな理由は、国(建築基準法)が義務化していないからでしょう。
他にも構造計算がされていない理由は、次の2つが考えられます。
- 建築物が非常に多く、それぞれに計算や審査を行うのが不可能に近いから
- 設計者や大工に任せている面があるから
日本のおよそ80%にあたる木造の二階建ておよび平屋では、ほとんど構造計算は実施されていないのが現状です。
構造計算書の提出が「不要」な建物
一般的な木造住宅で、2階建て以下かつ500㎡以下の住宅は、構造計算書の提出は不要です。
構造計算書の提出が不要な建物を「4号建築物の特例」もしくは「4号特例」といいます。
対象となる4号建築物は、建築基準法第6条第1項第4号で規定された住宅で、建築士が設計しているのが条件です。
なお、構造計算書の提出は不要ですが、構造安全性は必ず確認しなければなりません。
構造計算書の提出が「必要」な建物
確認申請時に、構造計算書の提出が必要な建物は以下の通りです。
- 木造の3階建て以上
- 500㎡を超える延べ床面積
- 9mを超える軒高
- 13mを超える最高高さ
- 学校や病院、共同住宅など用途部分の床面積が100㎡を超える特殊建築物
上記のように、鉄骨造や鉄筋コンクリート造など、比較的規模の大きな建物が該当することがわかります。
構造計算書が不要な場合でも、木造構造計算を行った方が良いとされるケース

さまざまなデザインや建築様式の住宅が増えていることから、構造計算を行なったほうが良いケースもあります。
例えば、現在流行しているスキップフロアが挙げられます。
小さな階段が数多く存在する空間ですが、構造自体が複雑なので構造計算で数値化しておくと安心です。
他にもリビングからテラスまでの空間を掃き出し窓で仕切ったり、LDKと和室を一つにまとめたりした住宅も、構造計算を検討した方が良いでしょう。
構造計算書が不要でも、設計士から説明を受けたうえで十分に理解しておくことが重要になります。
木造構造計算にかかる費用について
木造構造計算の費用相場は規模や工法(構法)で異なるものの、30坪程度の一般的な住宅で30万円〜50万円です。
構造計算書はA4用紙で数百枚のボリュームになることもあり、設計事務所や建築確認審査機関の作業が膨大になります。
つまり、木造構造計算の費用が高額な理由は、作業量が膨大になるからといえるのです。
なお、デザイン性や耐震性に優れる工法の1つに、SE工法があります。
1棟1棟に対して厳密に構造計算を行いますが、意外にもSE工法の構造計算費用は木造軸組工法より安いという特徴があります。
【2025年以降】木造住宅における木造構造計算の義務化について

2025年以降、木造構造計算が義務化されます。
法改正の目的は建物の耐震性や安全性の向上、省エネ基準への適合化などです。
特に近年は地震などの自然災害が多く発生しており、南海トラフ地震や首都直下型地震も起こるといわれています。
実際に過去の巨大地震では、建物へ甚大な被害が出ています。
年度 | 地震名 | 最大震度 | 建物被害 |
1995年 | 阪神・淡路大震災 | 7 | 住宅全壊104,906棟、住宅半壊144,274棟 |
2004年 | 新潟県中越地震 | 7 | 住宅全壊3,175棟、住宅半壊13,810棟 |
2011年 | 東日本大震災 | 7 | 住宅全壊129,391棟、住宅半壊265,096棟 |
2016年 | 熊本地震 | 7 | 住宅全壊8,668棟、住宅半壊34,718棟 |
2024年 | 能登半島地震 | 7 | 住宅全壊8,795棟、住宅半壊18,761棟 |
出典:国土交通省資料
被害規模からわかるように、木造構造計算の必要性は非常に高まっているのです。
建築基準法の改正で木造2階建て住宅は「新2号建築物」に分類され、木造構造計算が義務化されることになります。
4号特例縮小とは?
2025年4月の法律改正にともない、4号特例は縮小する見込みです。
そもそも4号特例とは、建築基準法第6条第1項第4号で規定された小規模住宅における、建築確認・検査の一部を省略できる制度を指します。
改正後は「2階建て以下の木造住宅など」にあたる4号建築物の範囲が、新2号建築物・新3号建築物の範囲へと縮小されます。
新2号建築物 | 「木造2階建て」または「木造平屋建て」「延べ面積200㎡を超えるもの」 |
新3号建築物 | 「木造平屋建て」かつ「延べ面積200㎡以下」 |
新2号建築物はすべての地域で建築確認・検査が必須となり、新3号建築物は都市計画区域内の場合に必要です。
現行の4号建築物のほとんどが審査対象になることから、建築業界では「4号特例は廃止も同然だ」という声が上がっています。

まとめ
木造構造計算とは、建物の構造安全性を検証したり確認したりするための計算のことです。
建築基準法の改正により、2025年から新2号建築物では木造構造計算が義務化されます。
- 新2号建築物:「木造2階建て」または「木造平屋建て」「延べ面積200㎡を超えるもの」
2025年には4号特例も縮小されることから、住宅業界では早い段階から対応することが重要です。