ITエンジニアや社員のスキル管理ツールfapi(ファピー)を提供する株式会社エフ・ディー・シーのDXサービス事業推進部 佐々木舞美が、200名以上のITエンジニアのスキル管理・アサイン管理を25年以上行ってきた実務経験をもとに、RAMの基本とRACIチャートの活用方法を解説します。
プロジェクトの遅延やトラブルの多くは、「誰が何の責任を持つのか」が曖昧なまま進行することから起こります。RAM(Responsibility Assignment Matrix)は、プロジェクトのタスクとメンバーの役割を一覧で可視化し、責任の所在を明確にするためのフレームワークです。この記事では、RAMとは何か、代表的なRACIチャートの作り方、運用の注意点まで、実務目線でわかりやすく解説します。

YouTubeチャンネルにて、弊社代表の和田崇紀による「スキル管理・アサイン管理」を最適化するノウハウも共有しています。コチラも合わせて参考にしてくだい。
RAMとは?プロジェクトマネジメントの基本ツール
RAMとは、「Responsibility Assignment Matrix(責任分担マトリクス)」の略で、プロジェクトの各タスクに対して、誰がどの役割を担うのかを表形式で整理するツールです。PMI(プロジェクトマネジメント協会)が発行するPMBOK Guideでも、リソースマネジメント計画の代表的な手法として紹介されています。

RAMの最大の目的は、タスクごとの責任の所在を明確にすることです。プロジェクトでは「誰かがやるだろう」「これは自分の担当ではない」といった認識のズレが起こりがちですが、RAMで役割を可視化すれば、抜け漏れや責任の押し付け合いを防げます。
- WBS(作業分解構造)で洗い出したタスクを縦軸に配置する
- プロジェクトメンバーや役割を横軸に配置する
- 交点に「実行責任」「説明責任」などの役割を記号で記入する
- 1ページで全体像を俯瞰できる構造にする
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Responsibility Assignment Matrix(責任分担マトリクス) |
| 別名 | RACIマトリクス、Linear Responsibility Chart(LRC) |
| 主な目的 | タスクと役割を可視化し、責任の所在を明確にする |
| 主な利用シーン | プロジェクト計画、組織横断業務、業務プロセス整理 |
| 代表的な記法 | RACIチャート(後述) |
RAMが必要とされる理由
規模の大きいプロジェクトや部門横断のプロジェクトでは、関係者が増えるほど「誰が決めるのか」「誰が承認するのか」が見えにくくなります。RAMを使えば、意思決定の流れと作業分担を一覧で把握できるため、報連相のミスや承認遅延を減らせます。特にIT・SES業界のように、社内外のメンバーが混在する現場では効果が大きいツールです。
RAMの代表例「RACIチャート」とは

RACIチャートとは、RAMの中で最も広く使われている記法で、各タスクに対して「Responsible・Accountable・Consulted・Informed」の4つの役割を割り当てる方式です。PMBOK Guideでも、RAMの代表例としてRACIチャートが紹介されています。
| 記号 | 役割 | 意味 | 原則 |
|---|---|---|---|
| R | Responsible(実行責任者) | 実際に作業を行う担当者 | 1タスクに複数人もOK |
| A | Accountable(説明責任者) | 最終的にタスク完了の責任を負う人 | 1タスクに必ず1人 |
| C | Consulted(協議先) | 事前に意見・専門知識を提供する人 | 双方向のやり取り |
| I | Informed(報告先) | 進捗や結果の報告を受ける人 | 一方向の通知 |
RACIチャートのサンプル
たとえばシステム開発プロジェクトでRACIチャートを作ると、次のようなイメージになります。
| タスク | PM | リーダー | 開発者 | 顧客 |
|---|---|---|---|---|
| 要件定義 | A | R | C | C |
| 基本設計 | A | R | R | I |
| 開発・実装 | A | C | R | I |
| テスト | A | R | R | C |
| リリース判定 | R | C | I | A |
このように一覧化すると、「要件定義は誰が決めて、誰に確認するか」「リリース判定の最終承認は顧客側」といった役割分担が一目でわかります。特に「A(Accountable)は1タスクに1人だけ」というルールを徹底することで、責任の分散による意思決定の遅延を防げます。
RAM(RACIチャート)を使う3つのメリット

RAMを活用すると、プロジェクト運営の質が大きく変わります。特にIT・SES企業の現場で実感しやすいメリットを3つに整理しました。
メリット1. 責任の所在が明確になる
「あの作業は誰が決めるのか」が事前に決まっていると、判断待ちの時間が減ります。AccountableとResponsibleを明確に分けておくことで、現場が動きやすくなり、進捗の遅延も防げます。トラブル発生時にも、誰がリカバリーを主導するかが即座に判断できます。
メリット2. コミュニケーションが整理される
RACIチャートでは、Consulted(事前協議)とInformed(事後報告)を明確に区別します。本来は通知で済む相手を会議に呼んでしまうケースを避けられるため、不要な会議が減り、関係者の負担が軽減されます。逆に、報告のみで済ませていた相手から事前協議が必要だったと後から指摘されるリスクも減らせます。
メリット3. プロジェクトの引き継ぎが容易になる
RAMは「生きたドキュメント」として運用するのが基本です。役割や担当者が変わった際に更新しておけば、新メンバーの参画時や他案件への横展開時に、過去のプロジェクト構造を素早く理解できます。属人化を防ぎ、組織としての知見蓄積にもつながります。
RAMチャートの作り方【4ステップ】
RAMチャートは、難しい知識がなくても作成できます。基本の手順は次の4ステップです。
- WBS(作業分解構造)でプロジェクトのタスクを洗い出す
- 関係者・役割を横軸に並べる
- 各タスクに対してR・A・C・Iを割り当てる
- 関係者全員でレビューし、合意形成する
ステップ1. タスクを洗い出す
まずプロジェクトに必要な作業をWBS形式で分解します。粒度が細かすぎるとマトリクスが煩雑になり、粗すぎると役割が曖昧になります。中規模プロジェクトなら、1つのRAMで20〜30タスク程度が目安です。
ステップ2. 関係者と役割を整理する
横軸に配置するのは個人名でも役割名でも構いませんが、「役割名」で記述するほうがメンバー変更時のメンテナンスが楽になります。プロジェクトマネージャー、開発リーダー、設計担当、テスト担当、顧客窓口など、責任範囲が異なる役割を洗い出しましょう。
ステップ3. R・A・C・Iを割り当てる
各タスクに対して4つの役割を割り当てます。このとき守るべきルールは以下のとおりです。
- Accountable(A)は1タスクに必ず1人だけ
- Responsible(R)がいないタスクはない(誰も実行しないと進まないため)
- 同一人物に複数の役割(例:AとR)を兼任させるのは可
- 1つのタスクに過剰なC(協議)を入れないよう注意する
ステップ4. 関係者と合意形成する
作成したRAMは、関係者全員でレビューして合意を取ります。一方的に決めた割り当ては現場で機能しません。「自分はRだと思っていたがAだった」「Cではなくただ知らせてくれればよい」といった認識のズレを、運用前にすり合わせることが重要です。
RAMチャートのバリエーション(RACI以外の記法)
RAMの代表はRACIですが、プロジェクトの特性に応じてバリエーションが使われることもあります。主な拡張版を一覧で整理しました。
| 記法 | 追加される役割 | 向いているケース |
|---|---|---|
| RACI | —(基本形) | 一般的なプロジェクト全般 |
| RASCI | S:Support(実行支援) | 実作業を支援する役割が明確にある場合 |
| RACI-VS | V:Verifier(検証者)、S:Signatory(署名者) | 承認プロセスが厳格な業界・契約 |
| DACI | D:Driver(推進者)、その他はRACI類似 | 意思決定のスピードを重視する場合 |
| CAIRO | O:Out of the loop(関与しない) | 関与しないことを明示したい大規模組織 |
どの記法を選ぶかは、プロジェクトの規模と現場文化次第です。複雑な記法を使うほど運用が重くなるため、まずはRACIから始めて、必要に応じて拡張するのがおすすめです。
RAMチャート運用の3つの注意点

RAMは作成しただけでは効果を発揮しません。実際の運用でつまずきやすいポイントを押さえておきましょう。
注意点1. 一度作って終わりにしない
プロジェクトは進むにつれて、人員や役割が変わるものです。最初に作ったRAMをそのままにしておくと、現実とのズレが大きくなり、ドキュメントが形骸化します。定例ミーティングや工程切り替えのタイミングで、内容を見直す運用ルールを決めておきましょう。
注意点2. Aを複数人にしない
Accountable(説明責任者)を複数人に割り当てると、結果的に誰も責任を取らない構造になります。RACIの設計上、Aは必ず1人と覚えておくことが重要です。複数候補がいる場合は、上位レイヤーで責任者を1人に絞り込みましょう。
注意点3. CとIを混同しない
Consulted(協議)とInformed(報告)の使い分けは、運用時に最も誤りやすいポイントです。Cは双方向のやり取り、Iは一方向の通知という違いがあります。混同すると、関係者の負担が増えたり、本来意見を聞くべき相手を外してしまったりするリスクがあります。
RAMに関するFAQ

RAMとRACIの違いは何ですか
RAMは「責任分担マトリクス」というツールの総称で、RACIはその中で最も広く使われている記法の一つです。つまりRACIはRAMの代表例にあたります。PMBOK Guideでも、RAMの説明の中でRACIチャートが例として挙げられています。
小規模プロジェクトでもRAMは必要ですか
関係者が3〜4人程度であれば、口頭で役割を確認できる場合もあります。ただし、社内外のメンバーが混在する、もしくは複数部門にまたがるプロジェクトでは、規模が小さくてもRAMを作る価値があります。後からの「言った・言わない」を防げます。
RAMはExcelで作れますか
はい、Excelやスプレッドシートで十分に作成可能です。専用ツールを使わなくても、行にタスク、列に役割を配置するだけで作れます。ただし、関係者が多い場合や複数プロジェクトで使う場合は、更新性・共有性に優れたプロジェクト管理ツールの活用も検討しましょう。
アジャイル開発でもRAMは使えますか
使えます。ただし、アジャイルでは役割と責任が動的に変わるため、固定化しすぎると機能しません。スプリント単位や大きなマイルストーン単位で見直すなど、運用方法を柔軟に調整することが重要です。PMBOK Guide第7版以降は、アジャイルとの組み合わせも前提として整理されています。
RAMを浸透させるコツはありますか
キックオフミーティングなど、プロジェクト開始時の合意形成イベントで全員に共有するのが効果的です。また、進捗会議の冒頭で「今日の議題のAは誰か」を確認する習慣をつけると、責任の所在が自然と意識されるようになります。
RAMチャートと併せてアサイン管理を行うことも大事
RAMチャートは、プロジェクト内での「役割」と「責任」を明確にする強力なツールです。一方で、誰がどの案件のどの役割に向いているのか、現在どれくらい稼働に余裕があるのかを把握するには、アサイン管理が欠かせません。役割を割り当てる前提として、各メンバーのスキルや稼働状況を可視化できていなければ、せっかくのRAMも絵に描いた餅になってしまいます。
つまり、RAMチャートで「誰が何の責任を持つか」を整理しつつ、アサイン管理で「誰をどの案件に配置するか」を最適化することで、はじめてプロジェクト運営の精度が大きく高まります。
