「リスキリングとは何かは分かるようで曖昧」「研修やOJT、リカレント教育と何が違うのか整理できない」——こうした悩みを抱えるIT・SES企業の管理者は少なくありません。スキル管理・アサイン管理ツールfapi(ファピー)を提供する株式会社エフ・ディー・シーのDXサービス事業推進部 佐々木舞美が、200名以上のITエンジニアのスキル管理・アサイン管理を25年以上行ってきた実務経験をもとに、リスキリングの基本と、現場で迷いやすい論点を整理します。

特にIT・SES企業では、学ぶこと自体が目的になると現場に定着しません。案件に必要なスキルは何か、誰にどの順番で身につけてもらうか、習得結果をどう可視化するかまで考える必要があります。この記事では、リスキリングとは何か、リカレント教育との違い、実務での進め方、そして仕組み化のポイントまでを分かりやすく解説します。

リスキリングとは?経済産業省の定義から整理する

リスキリングについて、経済産業省は次のように定義しています。

新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること(出典:経済産業省「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」

つまりリスキリングとは、現在の業務を少し上達させる学びではなく、将来必要になる役割や業務に対応するための学び直しを指します。日々の自己啓発や趣味の学びとは目的が異なり、企業の事業戦略や人材戦略と結びついた取り組みである点が特徴です。

  • いまの業務を少し上達させるだけでなく、将来必要な役割に備える視点が重要
  • IT・SES企業では、学習テーマを案件需要や職種別スキルと結びつける必要がある
  • 研修実施だけで終わらせず、スキルの見える化まで設計すると定着しやすい
項目 概要 向いているケース
リスキリング 将来必要な職務や役割に対応するため、新しいスキルを習得する取り組み DX推進、職種転換、上流工程や新技術対応を進めたい企業
アップスキリング 現在の職務をより高い水準で遂行するために能力を高める取り組み 既存エンジニアの技術力底上げ、マネジメント力強化
リカレント教育 社会人の学び直し全般を含む広い概念。職業に直結しない学びも含まれる 中長期のキャリア形成や、幅広い学習機会を整えたい場合

混同しやすいポイントは「目的」と「使う場面」

たとえば客先常駐のエンジニアが多いSES企業では、「Java経験者をクラウド案件にも対応できるようにしたい」「設計経験の浅いメンバーを上流工程に広げたい」といった課題が起こります。こうした将来の配置や案件戦略にひもづく学びは、単なる研修ではなくリスキリングとして捉えると整理しやすくなります。

リスキリングとリカレント教育の違い

リスキリングとリカレント教育は、似ているようで実務では明確に分けて考えたほうが判断しやすくなります。一般的に整理されている違いは次のとおりです。

観点 リスキリング リカレント教育
主体 企業が主導することが多い 個人主導が中心
学び方 働きながら業務に直結する形で学ぶ 一時的に職場を離れて学ぶケースも含む
目的 新しい職務や役割への適応、事業戦略との接続 キャリア形成や教養まで含む幅広い学び直し
範囲 職業上のスキルに焦点 趣味・教養も含むより広い概念

なお、リカレント教育の支援は文部科学省・厚生労働省を中心に整理されており、生涯教育や雇用支援の文脈で広く扱われています。詳細は厚生労働省の関連資料もあわせてご確認ください。

IT・SES企業ではリスキリングの考え方が向いている

IT・SES企業では、エンジニアが客先で実務を続けながら新しいスキルを身につける場面が多くなります。一度職場を離れて学び直すリカレント教育より、業務と並行して学べるリスキリングの考え方のほうが現場運用と相性が良いケースが多いといえます。特に、案件提案や業務経歴書の更新まで連動させたいなら、学習結果を実務で見える化できる仕組みが重要です。

リスキリングを比較・判断するときの基準

リスキリングの取り組み方法を考えるとき、特にIT・SES企業では「学びをアサインや業務経歴書の更新につなげられるか」が大きな分かれ目になります。比較軸を分けて考えると判断しやすくなります。

  • 学ぶ目的が「教養」なのか「職務転換・役割拡張」なのか
  • 学習内容が案件需要や職種定義と結びついているか
  • 学習履歴だけでなく、習得スキルを配置判断に使えるか
  • アサイン管理や業務経歴書更新まで連動できるか
比較軸 汎用型 IT・SES特化型 見るべきポイント
学習の目的設定 一般的なキャリア形成や自己啓発中心 案件需要・職種別要件・将来アサインを前提に設計 どの役割に必要な学びかを定義できるか
スキルの可視化 受講履歴や資格管理にとどまりやすい 保有スキル・習得予定・現場経験を一体で管理しやすい スキルマップを更新しやすいか
アサイン管理との連動 学習結果が配置判断に反映されにくい 案件候補者の抽出や育成対象の選定に使いやすい 学びと人員配置が分断されていないか
業務経歴書の運用 手作業更新が多い 経験・スキルをもとに業務経歴書の自動出力と相性がよい 営業・提案業務まで効率化できるか

経済産業省が公開しているデジタルスキル標準は、DXに必要な知識やスキルを整理した指針として、企業の育成や採用の参考に使えます。何を学ばせるべきか迷う場合は、公的な指針を基準にしつつ、自社の案件構成に合わせて具体化するのが現実的です。

IT・SES企業でリスキリングを失敗させない進め方

リスキリングを成功させるには、研修メニューを増やす前に「どの人材を、どの役割に、いつまでに育てたいか」を決めることが重要です。学習機会だけ整えても、現場配属や評価に結びつかなければ定着しません。

  1. まず、将来必要な職種・案件・工程を整理する
  2. 次に、現在の保有スキルとの差分を可視化する
  3. そのうえで、対象者・優先順位・期限を決める
  4. 最後に、学習結果をアサイン判断や業務経歴書更新に反映する
ケース 向いている選択 理由
SES企業(客先常駐エンジニアが多い) スキル管理とアサイン管理をつなげて進める 学習内容と案件提案を分断すると、育成成果が配置に反映されにくいため
受託開発会社(複数プロジェクト掛け持ち管理) 役割別スキル定義を先に整える PM・PL・設計・開発・保守で必要スキルが異なるため
エンジニア数が20〜100名規模でExcel管理に限界を感じている Excel運用から段階的に仕組み化する 更新漏れや属人化を減らし、現場・営業・管理部門で同じ情報を見やすくするため
監査対応・スキルマップ提出が必要な企業 証跡管理まで見据えて運用する 教育実施だけでなく、誰が何を習得したかを説明できる状態が求められるため

「何を学ぶか」だけでなく、「学んだ結果をどう使うか」まで設計できる企業ほど、リスキリングは形骸化しにくくなります。特にIT・SES業界では、スキル管理・アサイン管理・業務経歴書管理を別々に運用しないことが重要です。

リスキリングはどう選び、どう定着させるべきか

結論として、リスキリングは流行語として取り入れるのではなく、自社の案件戦略と人材配置に結びつけて考えるべきです。学びの仕組みがあっても、現場で使える状態にならなければ成果にはつながりません。

  • 目的が「学習実施」ではなく「必要人材の育成」になっているかを確認する
  • スキルの差分が見える状態をつくり、育成対象を明確にする
  • 研修履歴だけでなく、アサインや業務経歴書と連動できる運用を選ぶ
  • Excelで回り続けるか迷ったら、更新頻度と関係部門の多さを判断材料にする

もし自社が「スキル管理とアサイン管理を一体で進めたいIT・SES企業」に当てはまるなら、リスキリングを単発の教育施策で終わらせず、日常運用に組み込める仕組みを検討するタイミングです。

リスキリングに関するFAQ

リスキリングとアップスキリングの違いは何ですか

アップスキリングは現在の職務をより高い水準で行うための能力向上を指し、リスキリングは将来必要となる新しい職務や役割に対応するための学び直しを指します。たとえば既存エンジニアの開発スキルを底上げするのはアップスキリング、開発エンジニアをデータ分析やクラウド領域に転換させるのはリスキリングに近い取り組みです。

リスキリングの対象になりやすいスキルは何ですか

DX推進に関わるスキル全般が中心になります。経済産業省のデジタルスキル標準では、AI・データサイエンス・クラウド・サイバーセキュリティなどがDX推進に必要な専門スキルとして整理されています。IT・SES企業の場合は、これらの汎用的なデジタルスキルに加え、案件で求められる特定の言語・フレームワーク・業界経験を組み合わせて考えるのが現実的です。

リスキリングに使える助成金はありますか

厚生労働省の「人材開発支援助成金」には、リスキリング向けのコースが用意されています。代表的なものが「事業展開等リスキリング支援コース」で、新規事業の立ち上げやDX推進に伴う訓練の経費・賃金の一部が助成対象です。要件や助成率は年度ごとに変更される可能性があるため、申請前に厚生労働省の公式情報や管轄の労働局で最新の支給要件を確認してください。

リスキリングが注目されている背景は何ですか

DXの加速とともに、業務プロセスや必要スキルが大きく変化していることが大きな要因です。経済産業省・経団連を中心に、デジタル人材の不足を解消する手段として企業主導のリスキリングが推奨されており、「人的資本経営」の文脈でも経営戦略と人材戦略を連動させる取り組みとして位置づけられています。IT・SES業界では、技術トレンドの変化スピードが特に速く、保有スキルの再構築が事業継続に直結します。

エンジニアにリスキリングを前向きに進めてもらうコツはありますか

「学んだスキルが、どの案件・どの役割につながるか」を本人にも見える形にすることが効果的です。学習が単なる業務命令ではなく、自分のキャリア設計や案件選択に反映される実感があると、取り組みの主体性が高まります。スキルマップや業務経歴書を本人と共有し、習得結果を継続的にアップデートする運用が、モチベーション維持にもつながります。

リスキリングを仕組みとして定着させたい方へ

リスキリングを現場で機能させるには、学習テーマの設定だけでなく、保有スキルの見える化、案件との接続、業務経歴書の更新まで一貫して考えることが欠かせません。スキル管理とアサイン管理を一体で運用したいIT・SES企業ほど、日々の実務に沿った仕組みづくりが成果につながります。詳細は公式サイトをご確認ください。

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