デジタルトランスフォーメーション(DX)が企業の競争力を左右する現代において、長年使用されてきた「レガシーシステム」からの脱却は避けて通れない課題です。特に日本国内では、多くの企業が基幹システムにレガシーシステムを抱えており、その刷新、すなわちレガシーマイグレーション市場は、今、かつてないほどの成長を見せています。本記事では、この注目の市場規模と動向、そして今後の展望について深く掘り下げて解説します。

開発本部
佐藤

ITエンジニアを150名以上抱え、多くのシステム開発に25年以上携わりながらISO9001を取得している弊社の開発本部で活躍しています。GMとしてチームメンバーを率いながら、多くのITエンジニアを育成中です。


レガシーマイグレーション市場の全体像と規模

レガシーマイグレーション市場の全体像と規模

レガシーマイグレーション市場は、企業のDX推進に直結する投資として、急速に拡大しています。

成長著しい市場規模

  • 国内のレガシー&オープンレガシーマイグレーション全体市場は、2024年度には1兆円に迫る勢いで急成長していると予測されています。
  • ある調査によると、2024年度の全体市場は、前年比大幅増の9,658億円(デロイト トーマツ ミック経済研究所のデータに基づく)が見込まれており、その成長率は非常に高い水準にあります。

レガシーとオープンレガシーの内訳

  • 市場は、主にメインフレームなどのレガシーマイグレーションと、UNIXやERPなどのオープンレガシーの2つに分類されます。
  • 特にオープンレガシー市場は、2023年度の実績でレガシーマイグレーション市場を上回り、急増傾向にあり、今後も需要過多が続く見込みです。

市場成長を牽引する主な要因

なぜ、これほどまでにレガシーマイグレーションの需要が高まっているのでしょうか。その背景にある主要な要因を解説します。

2025年の崖問題とDX推進

  • 経済産業省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」問題は、老朽化したレガシーシステムが日本経済全体にもたらすリスクを具体化しました。
  • これを受けて、多くの企業がDXを加速させるため、システムのモダナイゼーション(近代化)を最重要課題と位置づけ、投資を強化しています。

クラウドへの移行需要の高まり

  • クラウドコンピューティングの普及は、レガシーマイグレーションの最大のドライバーの一つです。
  • スケーラビリティ、柔軟性、セキュリティの向上を目指し、企業はオンプレミスからハイブリッドまたはマルチクラウド環境への移行を積極的に進めています。

レガシーシステムを扱える人材の不足

  1. メインフレームなどのレガシーシステムは、特定のプログラミング言語や技術に精通した人材が必要です。
  2. しかし、技術者の高齢化と新規人材の不足により、レガシーシステムの維持・管理が困難になっており、マイグレーションによる技術的な負債の解消が急務となっています。
  3. 運用コストの削減ニーズ
  4. レガシーシステムの維持・保守には、高額なコストがかかります。
  5. マイグレーションによって最新のオープンシステムやクラウド基盤に移行することで、運用コストを大幅に削減し、その分を戦略的なIT投資に回すことが可能になります。

注目されるマイグレーション手法と技術動向

注目されるマイグレーション手法と技術動向

レガシーマイグレーションは一つの手法に限りません。企業の状況に応じて多様な手法が用いられています。

モダナイゼーションの多様なアプローチ

  • リプレイス(再構築)、リホスト(クラウド移行)、リファクタリング(コードの最適化)、リライト(書き換え)など、目的やシステム特性に合わせた多様なアプローチが採用されています。
  • 特に、ビジネスロジックを維持しつつ基盤をクラウドへ移行するリホストが、迅速性とコスト効率から注目を集めています。

生成AIの活用と効率化

  • 近年、マイグレーション作業における生成AIの活用も検証が進んでいます。
  • 例えば、レガシーコードの分析や新システムへのコード変換の一部をAIが担うことで、作業の効率化とスピードアップが期待されています。

市場を牽引する主要プレイヤー

国内のレガシーマイグレーション市場は、大手SIer(システムインテグレーター)が中心となって展開されています。

国内トップSIerの積極展開

  • 日立製作所や富士通といった国内のトップSIer各社が、レガシーモダナイゼーションをDX事業の柱として位置づけ、積極的なソリューション展開を進めています。
  • 特にメインフレームユーザーを多く抱えるこれらの企業が本腰を入れることで、市場全体の加速に繋がっています。

今後の市場予測と将来展望

市場の成長は一時的なものではなく、今後も堅調に推移すると予測されています。

2029年度に向けた市場規模予測

  • オープンレガシー市場は、UNIXやERP、Javaなどの需要に牽引され、2029年度には2024年度対比で約1.6倍にまで拡大すると予測されています。
  • レガシーマイグレーション市場全体としても、今後数年間、高い成長率を維持し、国内ITサービス市場の成長をけん引する重要な要素であり続けるでしょう。

まとめ

レガシーマイグレーション市場は、「2025年の崖」への対応、DX推進、クラウド移行、そしてコスト削減という複合的な要因により、国内で最もホットなIT市場の一つとなっています。

この市場の活況は、単なるシステムの移行に留まらず、企業のビジネスモデルそのものの変革を可能にするデジタル・モダナイゼーションへの重要なステップです。今後、生成AIなどの新技術の適用が進むことで、マイグレーションの効率化はさらに進み、企業の競争力強化に不可欠な投資分野として、その重要性を増していくでしょう。