Salesforceの運用において、現在の開発ベンダーとの関係に課題を感じ、リプレイス(変更)を検討する企業は少なくありません。しかし、「移行に失敗したら業務が停止してしまうのではないか?」「現行ベンダーとの関係悪化が怖い」といった不安から、踏み切れないケースも多く存在します。

本記事では、ITエンジニアを200名以上抱え、システム開発を25年以上経験する弊社、FS部 佐々木舞美が、Salesforceベンダーの変更・移行を成功させるための具体的なプロセスと、多くの企業が直面する致命的なリスク、そしてその解決策について、経験豊富なコンサルタントの視点から徹底解説します。


ベンダー変更を検討する企業が抱える「保守・運用コスト高」と「開発スピードの遅延」

ベンダー変更を検討する企業が抱える「保守・運用コスト高」と「開発スピードの遅延」

Salesforceのベンダー変更を検討する主な動機は、以下の2点に集約されます。

  • 保守・運用コストの肥大化: ベンダーの技術力や体制が現状のSalesforce環境と合致していない、あるいは開発が属人化している結果、小さな改修や問い合わせにも高額な費用が発生し続けている状態。
  • 開発スピードの遅延とビジネス要求への追いつかなさ: ベンダーのナレッジ不足やリソース不足により、新しいビジネス要件に対する開発が遅れ、DX推進のスピードを大きく阻害している。

これらの問題は、単にコストの問題に留まらず、企業の競争力そのものを低下させる致命的な問題に発展する可能性があります。


ベンダー変更の最適なタイミングと、移行期間のプロジェクト管理

ベンダー変更の検討は、以下のタイミングで行うのが最適です。

  1. 現行契約の更新時期の6ヶ月前: 法的・契約的な制約をクリアし、新ベンダー選定と移行準備期間を確保するため。
  2. 大きな機能追加・改修プロジェクトの開始前: 中途半端なタイミングでの変更は、責任範囲の曖昧化や開発の品質低下を招くため、区切りが良い時期を選びます。

プロジェクト管理の鍵

移行期間は、現行ベンダー、新ベンダー、そして自社の三者が関わる複雑なプロジェクトになります。

  • 専任のプロジェクト責任者の配置: 自社内に、ベンダー間の調整・意思決定を迅速に行えるキーパーソンを配置します。
  • 共通のプロジェクト管理ツールの利用: JIRAやAsana、あるいはSalesforce Platform上のツールを用いて、タスクの進捗、ドキュメント、課題を一元管理します。

移行対象のSalesforce環境の現状分析(技術負債、カスタム状況の把握)

新しいベンダーがスムーズに業務を開始できるように、現行環境の「健康診断」が不可欠です。

  • 技術負債の洗い出し: 使用されていないApexコード、複雑すぎるワークフロールール、古いトリガーなど、運用コストを上げている負債を特定します。
  • カスタム状況の可視化: どのオブジェクトに、どの程度のカスタム項目、自動化、外部連携が存在するかをドキュメント化します。Schema BuilderやAppExchangeツールを利用して、全体像を視覚的に把握します。
  • ユーザーストーリーの把握: 過去の改修履歴から、なぜそのカスタムが必要になったのか(ユーザーストーリー)を現行ベンダーにヒアリングし、「なぜそうなっているのか」という背景情報を引き出します。

現行ベンダーから新ベンダーへのスムーズな情報移管計画

情報移管の成否が、リプレイスの成功を左右します。以下の成果物を期限を設けて要求します。

移管必須の成果物移管目的
システム構成図/ER図環境の全体像とデータ構造の理解
カスタム開発ドキュメントApex、Visualforce、LWCなどのカスタムコードの仕様理解
外部連携インターフェース仕様書他システムとのデータ連携方法、認証情報の把握
インシデント/障害履歴過去に発生した問題とその解決策、潜在的なリスクの把握
管理者・ユーザー向け操作マニュアル業務プロセスの理解と、新ベンダーによるサポート体制の構築

情報移管の場には、現行ベンダーと新ベンダーのキーパーソンを必ず同席させ、質疑応答の時間を設けるべきです。


現行Salesforce 開発 ベンダーからの「引き継ぎ拒否」や「ノウハウの隠蔽」という致命的なリスク

現行Salesforce 開発 ベンダーからの「引き継ぎ拒否」や「ノウハウの隠蔽」という致命的なリスク

ベンダーリプレイスの最大の障壁は、現行ベンダーからの非協力的な態度、すなわち「引き継ぎ拒否」や「ノウハウの隠蔽」です。

隠蔽・拒否が起こる理由

  • 機嫌を損ねてしまうことへの懸念: 自社がベンダーとの関係悪化を恐れ、適切な情報要求を控えてしまう。
  • ベンダー側の独占的な環境構築: 意図的にドキュメントを残さず、自分たちでしか改修できない属人性の高い環境を作り上げている。

対処法

  1. 契約書に基づく要求: 契約書に「契約終了時のドキュメント・情報の返還義務」が明記されているか確認し、それを盾に毅然とした態度で要求します。
  2. 第三者としての新ベンダーの活用: 新ベンダーを技術的な第三者として交渉の場に入れ、プロの視点から「何が不足しているか」を具体的に指摘してもらいます。
  3. 情報開示の優先順位付け: 最低限必要な情報(パスワード、IPアドレス、外部連携情報)から順に、段階的に開示を要求します。

困難なベンダーリプレイスを乗り越え、安定稼働を実現する「解決策」とは?

ベンダーリプレイスを成功に導くためには、「技術力」「移行ノウハウ」「コミュニケーション力」の三拍子が揃った新ベンダーを選定することが唯一の解決策です。

SFsolution(Salesforce専門コンサルティングサービス)のご紹介


SFsolution(https://www.fdc-inc.co.jp/sfsolution/)は、Salesforceの安定稼働とDX推進を専門とするコンサルティングサービスです。

  • 徹底した現状分析: 現行環境の技術負債を独自のフレームワークで定量的に分析し、引き継ぎ不足のリスクを最小化します。
  • 移行専門チーム: ベンダーリプレイス経験豊富なPM(プロジェクトマネージャー)が、現行ベンダーとの交渉を円滑に進め、必要な情報を確実に引き出します。
  • 安定稼働を重視した開発体制: 引き継ぎ後に発生する潜在的な問題(バグや非効率なプロセス)を事前に特定し、長期的な保守・運用を見据えた環境に改善します。

新ベンダーの評価:リプレイス後の保守・運用体制の安定性を見極める

新ベンダーを選定する際、開発力だけでなく「リプレイス後の保守・運用体制」の安定性を重視しなければなりません。

評価項目確認すべきポイント
ナレッジマネジメントドキュメントの整備方針、Salesforceのヘルプ機能(トレイルヘッドなど)への知識レベル
属人化の防止策担当者が変わっても業務が継続できる体制、複数名体制の構築
SLA(サービスレベルアグリーメント)障害発生時の復旧目標時間(RTO)、緊急対応体制、連絡窓口の明確さ
キャパシティ将来的な大規模開発にも対応できるリソースの柔軟性

契約解除における法的注意点と円滑な関係終了のための交渉術

現行ベンダーとの契約解除を円滑に進めるため、感情的な対立を避け、ビジネスライクに進めることが重要です。

  • 契約書(基本契約・個別契約)の確認: 契約解除の通知期間、違約金規定、データ・情報の返還義務の条項を再確認します。
  • 「理由の明確化」と「感謝の意」: ベンダー変更の理由を「技術力不足」などと直接的に伝えるのではなく、「当社のビジネス要件の変化により、より特化したパートナーが必要になった」といった前向きな理由に置き換えます。その上で、これまでの貢献に感謝の意を伝えます。
  • 機密保持契約(NDA)の確認: 情報移管後も、現行ベンダーが保持する機密情報が適切に処理されることを書面で確認します。

リプレイスプロジェクトにおけるデータ整合性の確保とテスト計画

ベンダー変更に伴う移行作業において、最も重要なのは「データと機能の整合性」です。

  • データ移行計画: データローダー、データインポートウィザード、あるいは外部ツールを利用し、移行元・移行先でのレコード数、項目値の正確性をダブルチェックする計画を立てます。
  • UAT(ユーザー受け入れテスト)の徹底:
    • 主要な業務プロセス(商談作成、見積作成、承認プロセスなど)をエンド・ツー・エンドでテストします。
    • 現行ベンダーから提供されたマニュアルに基づき、すべての機能がマニュアル通りに動作するかをユーザー部門にテストしてもらいます。

このプロセスの徹底により、移行後の潜在的なバグを根絶します。


まとめ

Salesforce開発ベンダーの変更は、単なるベンダーの切り替えではなく、企業のDX推進を再起動させる戦略的なプロジェクトです。

移行を成功させるための鍵は、以下の3点です。

  1. 徹底した現状分析とドキュメント化で、現行ベンダー依存からの脱却を目指す。
  2. 情報移管のプロセスをプロジェクト化し、遅延やノウハウ隠蔽のリスクを排除する。
  3. 「移行ノウハウ」を持つ信頼できる新ベンダーを選定し、長期的なパートナーシップを築く。

あなたのSalesforce環境を新しいベンダーの技術力によって再生させ、ビジネスの成長を加速させるための第一歩を踏み出しましょう。


ご不明な点や、さらに詳細な戦略の深堀りが必要でしたら、お気軽にご相談ください。

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