- はじめに
- 1. ログの長期保存義務とストレージコスト増加のジレンマ
- 2. Salesforceが提供するログの種類別保持期間の基本ルール
- 3. データアーカイブの必要性:コンプライアンス要件と法的リスク
- 4. ログの長期保持とコスト削減を両立させるための戦略とは?(課題)
- 5. コスト効率と安全性を両立するSFsolutionのログアーカイブ支援
- 6. ログの外部長期保存(AWS S3, Google Cloudなど)の具体的な選択肢
- 7. コンプライアンス監査に耐えうるアーカイブデータの管理手順
- 8. ログデータ容量を最適化するためのレポートと設定の見直し
- 9. ログアーカイブ戦略策定のステップバイステップガイド
- 10. 次のステップ:Salesforce ログと外部SIEM/ログ管理ツールの連携手順とメリット
はじめに
Salesforceはビジネスの心臓部となるデータが集まるプラットフォームです。このプラットフォームにおける「ログ」は、セキュリティ監査、コンプライアンス対応、そしてトラブルシューティングにおいて極めて重要な役割を果たします。しかし、「ログをどこまで保持すべきか」「増加するストレージコストをどう抑えるか」という課題は、多くのSalesforce管理者にとって頭の痛い問題です。
本記事では、ITエンジニアを200名以上抱え、システム開発を25年以上経験する弊社、FS部 佐々木舞が、Salesforceログの標準的な保持期間、コンプライアンス要件、そしてコスト効率と安全性を両立させるための具体的なアーカイブ戦略を、経験豊富なSalesforce専門家の視点からステップバイステップで解説します。
1. ログの長期保存義務とストレージコスト増加のジレンマ

増加するログデータとコストの現実
ビジネス規模の拡大、規制の強化、セキュリティ意識の高まりに伴い、Salesforceログのデータ量は爆発的に増加しています。
- 規制コンプライアンスの要求: SOX法(財務)、GDPR/CCPA(個人情報)、HIPAA(医療情報)など、業界や地域によってログの最低保持期間が法律で定められています。多くの場合、これは数年単位の長期保存を義務付けています。
- 内部監査とセキュリティ: セキュリティインシデント発生時の原因究明や、内部不正の検出には、数ヶ月〜数年遡ったログの分析が必要です。
- ストレージコストの増大: Salesforceの標準ストレージに長期のログを保存し続けることは、高額なデータストレージ追加費用に直結します。特に、アクセス頻度の低い過去のログにまで高価なオンラインストレージコストを払い続けるのは非効率です。
このジレンマを解決する鍵が、アクセス頻度とコンプライアンス要件に基づいた「ログのアーカイブ戦略」です。
2. Salesforceが提供するログの種類別保持期間の基本ルール
Salesforceは多くの種類のログとイベントを提供していますが、その保持期間はログの種類によって大きく異なります。
| ログ・イベントの種類 | 概要 | 標準的な保持期間 |
| イベントモニタリング (Event Monitoring) | ユーザーアクティビティ、APIコール、レポート実行などの詳細ログ | 標準で6ヶ月 (※購入エディションによる) |
| 設定履歴 (Setup Audit Trail) | ユーザー権限の変更、セキュリティ設定の変更など、管理者操作ログ | 最大6ヶ月 (自動的に古いものから削除) |
| APIログ | 過去24時間のAPIリクエストの詳細 | 24時間 |
| デバッグログ (Apex/VF) | 開発者が使用するトラブルシューティング用のログ | 通常は短期 (最大で数日) |
| Field History Tracking | 特定の項目の変更履歴(データ履歴) | 最大18ヶ月 (古いデータは自動的にアーカイブオブジェクトへ移行) |
要点: セキュリティとコンプライアンスの核となる「イベントモニタリング」や「設定履歴」の標準保持期間は長くても6ヶ月です。それ以上の期間の保持が必要な場合は、外部へのデータ抽出とアーカイブが必須となります。
3. データアーカイブの必要性:コンプライアンス要件と法的リスク
コンプライアンス要件の例
| 規制名 | ログ保持期間の一般的な要求 | ログが必要とされる監査ポイント |
| SOX法 (Sarbanes-Oxley Act) | 5〜7年間 | 財務報告に関わるデータアクセス、権限変更、データ操作のログ |
| GDPR (General Data Protection Regulation) | ログの目的に応じて設定(通常は数年) | 個人情報への不正アクセス、データ侵害の検出、同意管理の追跡 |
| HIPAA (Health Insurance Portability and Accountability Act) | 6年間 | 医療記録(PHI)へのアクセス、システムアクティビティ、セキュリティ設定の変更 |
法的リスク
- 監査不合格(Non-Compliance): 必要な期間のログが提出できない場合、罰金や業務停止命令のリスクがあります。
- 訴訟時の証拠保全: 訴訟が発生した場合、電子証拠開示(eDiscovery)のために、過去のログが証拠として求められます。保持期間満了でログを破棄していると、法的リスクを負うことになります。
アーカイブは、「法的要求を満たすための保険」として不可欠な対策です。
4. ログの長期保持とコスト削減を両立させるための戦略とは?(課題)
この課題を解決するためには、ログデータを「ホット(頻繁にアクセス)」「ウォーム(たまにアクセス)」「コールド(監査時のみアクセス)」に分類し、適切なストレージに配置する戦略が求められます。
| ログの分類 | アクセス頻度 | ストレージ | コスト効率 |
| ホット | 過去1〜3ヶ月 (セキュリティ分析、トラブルシューティング) | Salesforce イベントモニタリング、SIEMツール | 高速アクセス優先 |
| ウォーム | 3ヶ月〜2年 (コンプライアンス監査、セキュリティフォレンジック) | 外部クラウド(AWS S3/GCP)、専用データベース | 処理速度とコストのバランス |
| コールド | 2年以上 (法的証拠、長期コンプライアンス) | 外部クラウドの低コストストレージ(Glacierなど) | 低コスト優先 |
最大の課題は、Salesforceからこれらのログを「効率的・安全・継続的」に抽出し、外部に保存する仕組みを構築することです。
5. コスト効率と安全性を両立するSFsolutionのログアーカイブ支援
前述の通り、Salesforceからログを「効率的・安全・継続的」に抽出して外部にアーカイブする仕組みの構築が最大の課題です。この課題を解決するための有力なソリューションの一つが、株式会社FDCが提供するSFsolutionです。
🚀 SFsolutionによるログアーカイブ支援のメリット
SFsolution(https://www.fdc-inc.co.jp/sfsolution/)は、Salesforceのデータを外部クラウドストレージへ容易に連携・アーカイブすることを目的とした構築支援が可能です。
- Event Monitoringログの定期的・自動抽出:
- SFsolutionを利用することで、Event Monitoringなど標準機能では保持期間が短いログデータを、API連携を通じて自動的かつ定期的にSalesforceから抽出することが可能になります。
- これにより、手動での抽出作業や、ログの取りこぼしによるコンプライアンスリスクを回避できます。
- AWS S3とのシームレスな連携:
- SFsolutionは、耐久性とコスト効率に優れたAWS S3(Amazon Simple Storage Service)を主要なアーカイブ先として推奨し、連携の構築を支援します。
- S3のストレージ階層(Glacierなど)を利用することで、アクセス頻度の低いログを超低コストで長期保存できます。
- データ完全性とセキュリティの確保:
- 抽出・転送プロセスにおいて、データは安全に暗号化(SSL/TLS)されます。
- アーカイブされたデータへのアクセス制御は厳格に管理され、データの改ざん防止(完全性/Integrityの確保)を支援し、コンプライアンス監査に耐えうる体制を構築します。
- 開発工数の削減:
- 自社でEvent Monitoring APIの知識を持つエンジニアをアサインし、抽出・転送・管理ロジックをゼロから開発する必要がなくなります。SFsolutionのサービスは、導入工数と期間を大幅に短縮します。
ログ抽出のメカニズム
SalesforceのEvent Monitoring API (Bulk API 2.0) などを活用し、EventLogFileオブジェクトから必要なログレコードを効率的に取得し、AWS S3等の外部ストレージに保存します。
アーカイブプロセスで考慮すべきセキュリティと完全性
アーカイブされたログは、監査に耐えうる「データの完全性(改ざんされていないこと)」を証明できなければ意味がありません。
- データのハッシュ化(Hashing): 外部ストレージに保存する際、データのハッシュ値を算出し、別の場所に記録します。これにより、後日データが改ざんされていないことを検証できます。
- アクセス制御: 外部ストレージへのアクセス権限を厳格に管理し、意図しない削除や変更を防ぎます。
- 暗号化: 転送中および保存中のログデータは、すべて暗号化(AES-256など)されている必要があります。

6. ログの外部長期保存(AWS S3, Google Cloudなど)の具体的な選択肢
Salesforceログのアーカイブ先として最もコスト効率と信頼性が高いのは、主要なクラウドサービスが提供するオブジェクトストレージです。
| クラウドストレージ | 特徴とメリット | 最適な利用シーン |
| AWS S3 / Amazon Glacier | 非常に高い耐久性とセキュリティ。Glacierを利用すれば、アクセス頻度の低いデータを超低コストで保存可能。Salesforce連携のSaaSが多い。 | 大量のコールドデータ、高い耐久性要件、既存インフラがAWSの場合 |
| Google Cloud Storage (GCS) | Googleエコシステムとの親和性が高い。S3と同様に、低コストのニアライン/コールドラインストレージを提供。 | G SuiteやGoogle CloudのBIツールを多用している場合 |
| Microsoft Azure Blob Storage | Azure環境との連携が容易。ストレージ階層(Hot, Cool, Archive)を利用した柔軟なコスト管理が可能。 | 既存インフラがAzureまたはMicrosoft製品中心の場合 |
これらの外部ストレージを利用することで、Salesforceの貴重なストレージをビジネスに必要なデータのために確保しつつ、コンプライアンス要件を満たしたログの長期保存が可能になります。
7. コンプライアンス監査に耐えうるアーカイブデータの管理手順

監査時に必要なログを迅速かつ正確に提示できなければ、アーカイブ戦略は失敗です。
- メタデータの管理:
- どのログが、いつ、どのクラウドストレージのどのバケットに保存されたか(保存場所、保存日時、データサイズ)を記録したインデックス(目録)を整備します。
- 完全性の検証(ハッシュチェック):
- 監査要求に応じてデータを取り出す際、保存時に作成したハッシュ値と、取り出したデータのハッシュ値を比較し、データの完全性(Integrity)を証明できるプロセスを確立します。
- 検索性の確保:
- アーカイブデータを単なるファイルの塊としてではなく、抽出した日付、ユーザーID、オブジェクト名などのキーで検索できるように、外部データベース(AWS AthenaやGoogle BigQueryなど)にメタデータを連携させ、検索性を高めます。
8. ログデータ容量を最適化するためのレポートと設定の見直し
アーカイブ戦略を策定する前に、まずSalesforce内の「何を保持し、何を破棄すべきか」を判断するためのデータ把握が必要です。
- データ消費レポートの活用:
- Salesforceの**「データストレージ使用状況」**レポートを確認し、Field History Trackingや特定のカスタムオブジェクト履歴データが容量を圧迫していないか把握します。
- Field History Trackingの見直し:
- すべての項目で履歴追跡が必要か再評価します。機密性の高いフィールドのみに絞ることで、履歴データ量を大幅に削減できます。
- デバッグログの自動削除設定:
- 開発完了後、不要なデバッグログが残り続けないよう、保持期間とレベルを適切に設定し、自動的に期限切れになるように管理します。
9. ログアーカイブ戦略策定のステップバイステップガイド
- 【ステップ1】要件の定義:
- コンプライアンス部門や法務部門と連携し、「保持が必要なログの種類」と「最低保持期間」を確定する。
- セキュリティチームと連携し、「セキュリティインシデント調査に必要な期間」を定義する。
- 【ステップ2】ツールの選定:
- AWS S3、GCP、Azureなどのアーカイブ先を決定する。
- Salesforceからの抽出(Event Monitoring API利用)を自動化するためのETLツールや連携ソリューションを選定する。
- 【ステップ3】抽出・転送メカニズムの構築:
- Event Monitoring APIを利用した日次または週次の定期的なログ抽出プロセスを構築する。
- 抽出データは、転送中に暗号化(SSL/TLS)されることを確認する。
- 【ステップ4】アーカイブと検証:
- 外部ストレージに保存する際、ハッシュ値を生成し、データの完全性を担保する。
- 保存後のデータへのアクセス権限を最小限に設定し、セキュリティを確保する。
- 【ステップ5】運用とテスト:
- アーカイブが正常に行われているかを定期的に監視する。
- 年1回以上、過去のアーカイブデータから特定のログを検索・復元する訓練(監査シミュレーション)を行い、プロセスを検証する。
10. 次のステップ:Salesforce ログと外部SIEM/ログ管理ツールの連携手順とメリット
本記事で解説したアーカイブ戦略は、コンプライアンスとコスト効率の土台です。しかし、ログを「活用」するためには、専門のログ管理ツールとの連携が不可欠です。
次回の記事では、このアーカイブしたログデータをさらに活用するための、より高度なセキュリティと監視戦略について解説します。
- Splunk, Elastic Stack (ELK), DatadogなどのSIEM(Security Information and Event Management)ツールとの連携手順
- リアルタイム監視、相関分析による脅威の自動検出というメリット
- Salesforceのセキュリティを次のレベルへ引き上げるための具体的な方法
Salesforceログのアーカイブ戦略は、単なるストレージコスト削減策ではなく、企業の信頼性と法的リスク管理の核心です。標準保持期間が短いことを理解し、外部クラウドストレージを組み合わせることで、コスト効率とコンプライアンス要件を同時に満たす強固なログ管理体制を構築しましょう。
次の記事を読む: Salesforce ログと外部SIEM/ログ管理ツールの連携手順とメリット
