Salesforceの導入・活用が広がるにつれて、外部ベンダーに依存せず、自社で開発・保守を担う「内製化」への関心が高まっています。しかし、内製化は一筋縄ではいかず、多くの企業が途中で挫折してしまうのも事実です。

本記事では、ITエンジニアを200名以上抱え、システム開発を25年以上経験する弊社、FS部 佐々木舞美が、Salesforce開発の内製化を成功に導くための支援ベンダーの賢い選び方と、失敗しないための具体的な連携術を、経験豊富な視点から徹底解説します。


内製化プロジェクトが直面する「技術者不足」と「開発ノウハウの欠如」

内製化プロジェクトが直面する「技術者不足」と「開発ノウハウの欠如」

多くの企業が内製化に踏み切れない、あるいは失敗する最大の理由は、技術者不足と開発ノウハウの欠如です。

  • 技術者不足: Salesforceの専門知識を持つ開発者(特にApexやLightning Web Componentsに長けた人材)は市場で需要が高く、採用や育成が容易ではありません。
  • 開発ノウハウの欠如: 要件定義や設計のベストプラクティス、セキュリティ、ガバナンス、そしてテスト戦略といった、安定したシステム運用に不可欠な開発ノウハウが社内に蓄積されていません。

これらの課題を解決し、内製化を軌道に乗せるために、適切な内製化支援ベンダーの活用が鍵となります。


内製化支援と開発代行は何が違う?目的別ベンダータイプの見極め方

Salesforceベンダーの提供サービスは多岐にわたりますが、内製化を目指す上で「内製化支援」と「開発代行」の違いを明確に理解することが重要です。

サービスタイプ主な目的提供される価値企業との関係性適している状況
内製化支援自走力の獲得ノウハウの移管、教育、開発プロセスの構築、伴走対等なパートナーシップ今後、自社で開発・保守を行いたい場合
開発代行成果物の完成要件に基づくシステム開発、実装受注者と発注者特定のプロジェクトを迅速に完了させたい場合

内製化を目指す場合、目先の開発完了ではなく、技術移管と人材育成にコミットしてくれる「内製化支援型」のベンダーを選ぶ必要があります。


支援型Salesforce 開発 ベンダーとの連携で陥りがちな「ノウハウ流出の停止」や「依存度が高まる」リスク

内製化支援ベンダーと連携する際、以下のような失敗リスクに注意が必要です。

  1. ノウハウ流出の停止(技術移管の停滞): ベンダーが意図的あるいは無意識に、自社のコアな開発ノウハウ(特に高度な設計思想やトラブルシューティングの知識)の共有を止め、企業側の学習が止まってしまう。
  2. 依存度が高まるリスク: 質問や問題解決を全てベンダーに依存してしまい、社内チームが自力で考える習慣を失い、結果としてベンダーなしでは動けない状態になってしまう。
  3. ブラックボックス化: ベンダー主導で開発が進み、社内メンバーがコードやインフラの全体像を把握できず、保守・改修の引き継ぎが困難になる。

これらのリスクを回避するには、「技術移管の計画」と「社内エンジニアの積極的な関与」が不可欠です。


内製化を成功へ導くために必要なベンダーの「技術移管と伴走支援」という解決策

内製化の成功は、単なるコードの引き渡しではなく、技術とマインドセットの移管にかかっています。

技術移管と伴走支援のポイント

  • ペアプログラミング・OJT: ベンダーが主導するのではなく、社内メンバーが実際にコードを書き、ベンダーがその場でレビューや指導を行う伴走型のOJT(On-the-Job Training)を実施します。
  • ドキュメントの共同作成: 設計書やコーディング規約、テスト仕様書などを、ベンダーと社内メンバーが共同で作成し、ノウハウを文書として定着させます。
  • フェーズアウト計画: 支援開始時から、ベンダーの役割を徐々に縮小し、社内チームが主導権を握る明確なフェーズアウト(卒業)計画を策定・共有します。

この「技術移管」と「伴走支援」こそが、内製化を成功に導くための最も強力な解決策です。

FDCでは、お客様のSalesforce開発の内製化を強力に支援するソリューション「SFsolution」を提供しています。高度な技術力を保有するコンサルタントが、技術移管を目的としたOJTやペアプログラミングを通じて、お客様の自立した開発体制構築を伴走型でサポートします。詳細はこちらをご覧ください。


理想的な内製化支援ベンダーを見抜く評価基準5つ

内製化を成功に導くパートナーを選ぶために、以下の5つの評価基準でベンダーを徹底的に見極めましょう。

  1. 「教える」スキルと実績: 単に開発ができるだけでなく、技術を分かりやすく教え、ノウハウを体系化した実績があるか。教育プログラムや資料が準備されているかを確認します。
  2. Salesforceの専門性(技術力): Apex、LWC(Lightning Web Components)、Salesforce DXなど、最新の開発技術に関する深い知識と認定資格を持つエンジニアが在籍しているか。
  3. ガバナンスとプロセス構築能力: 開発後の運用・保守を見据えたプロセス(DevOpsなど)や、組織全体のガバナンス体制構築を支援できるか。
  4. 技術移管へのコミットメント: 契約内容や提案書に技術移管の具体的な方法(OJTの回数、ドキュメントの範囲など)が明記され、その達成にコミットしているか。
  5. コミュニケーションと文化: 社内チームとの相性や、不明点でも気軽に質問できるオープンなコミュニケーション文化を持っているか。

内製化を加速させるベンダーの支援体制と具体的な役割

内製化を加速させるベンダーの支援体制と具体的な役割

内製化支援ベンダーは、開発の「手」としてではなく、内製化の「要(かなめ)」として機能すべきです。

ベンダーの支援体制と役割

  • 技術メンター/アーキテクト:
    • 役割: システム全体のアーキテクチャ設計、高度な技術課題の解決、社内エンジニアへの技術指導・レビュー。
    • 目標: 高品質なシステム設計と、社内エンジニアの技術レベルの底上げ。
  • プロセスコーチ/スクラムマスター:
    • 役割: アジャイル開発プロセスの導入、開発フローの標準化、課題管理・進捗管理の指導。
    • 目標: 効率的かつ持続可能な開発プロセスの定着。
  • 教育トレーナー:
    • 役割: 体系的な技術研修の提供、社内ドキュメントの整備支援。
    • 目標: 社員が自力で学習を進められるためのロードマップ作成と実行。

内製化を成功させるには、特にApex/Lightning開発といった高度な技術領域を見極めることが重要です。

🔗 別記事への提案:

Salesforce Apex/Lightning開発に特化したベンダーを見極める技術的評価ポイントについては、こちらの記事をご参照ください。

[Salesforce Apex/Lightning開発に特化したベンダーを見極める技術的評価ポイント]


成功事例に学ぶ:内製化とベンダー支援の最適なバランスとは

成功している企業は、内製化の初期段階でベンダーを「先生」として最大限活用しつつ、段階的にその役割を縮小していきます。

最適なバランスの例:

  • フェーズ1 (導入・初期開発): ベンダーが8割主導し、社内チームはペアプロやOJTを通じて2割の技術移管を受けるフェーズ。
  • フェーズ2 (機能拡張・改善): 社内チームが6割を主導し、ベンダーは4割の技術レビューや難易度の高い部分の開発に特化するフェーズ。
  • フェーズ3 (自走): 社内チームが10割を主導し、ベンダーはアドホック(都度)の技術コンサルティングや、年1回の技術監査のみを行うフェーズ。

この段階的な役割分担と、ベンダーの「先生」から「監査役」への変化を計画することが成功の鍵です。


ベンダーからの技術移管を定着させるための社内教育ロードマップ

技術移管された知識を「一過性のもの」にせず、組織の財産として定着させるためのロードマップが必要です。

  1. 基礎学習の義務化: Salesforce Trailheadなどの学習ツールの活用と、ベンダーからの基礎研修を全対象者に義務化。
  2. 実践とレビューの仕組み化: 移管されたノウハウを基に、必ず社内チームが開発を行い、ベンダーのレビューを必須とする仕組みを定着。
  3. 社内エキスパートの育成: 移管された技術を社内で教えられるキーパーソン(社内メンター)を選出し、その人材に集中的な教育と権限を付与。
  4. ナレッジベースの構築: 開発標準、トラブルシューティング、FAQを社内のナレッジベース(例: Confluence, Chatterなど)に蓄積し、全メンバーがアクセスできる状態にする。

契約書で定めるべき「技術継承」と「サポート終了」の明確な取り決め

内製化支援プロジェクトにおいて、契約書は単なる開発の取り決めではなく、「技術継承の保証書」でなければなりません。

必ず契約書に盛り込むべき項目

  • 技術継承(移管)の定義と範囲:
    • 移管するドキュメントの種類と納品形式。
    • OJTや研修の回数、時間、参加者の明確な保証。
    • ソースコードの完全な引き渡しと著作権の扱い。
  • ベンダーの役割と卒業基準:
    • ベンダーが果たすべきメンターとしての役割の明記。
    • 内製化の完了基準(卒業基準)を定め、その後のサポート体制(オンデマンドサポートなど)を規定。
  • 秘密保持と競業避止:
    • 移管したノウハウを第三者に不当に開示しない旨の取り決め。

これらの明確な取り決めが、後の「聞いてない」や「教えてもらっていない」といったトラブルを防ぎ、スムーズな内製化を保証します。


まとめ

Salesforce開発の内製化は、単なるコスト削減策ではなく、ビジネスの変化に迅速に対応できる「開発組織」を築くための経営戦略です。

内製化を成功させるための鍵は、開発代行型ではなく技術移管と伴走支援に特化した内製化支援型ベンダーを選び、技術継承の計画を明確に持つことです。ベンダーを「開発パートナー」としてではなく、「先生」として活用し、社内チームが主導権を握るフェーズアウト計画を実行しましょう。

本記事で解説した評価基準と連携術を参考に、貴社のSalesforce内製化を成功へと導く最適なパートナーを見つけてください。